「このマグナム-X50万Vはセダン90万Vの次に強力でハンディータイプでは群を抜いて抜群の威力、迫力を誇る。威嚇効果の音、光も物凄い業務用。お腹に接触させますと接触部位より体の中の筋肉が大型ペンチで思い切りつねられた様な激痛が体内の中で広がって行きますので我慢出来るレベルではありません」
と書かれた説明書を捲り、脚で試すと電極の触れた部分が赤く腫れ上がったが痛みは耐えた。
セダン90万Vにすればよかったなと思った。
脳に直接働きかけ、運動神経を一時的に麻痺させるマイオトロンは意味がない。激痛を与えなければいけない。父親の書棚にあったコレクションDVDの内で気に入っていたタクシードライバーのデニーロが腕に仕掛けたものと同じ仕様で、スタンガンを改造して、袖から電撃を与える鞭ができないか何枚もスケッチした。夏場は隠すことができない。少なくとも10月末から桜の咲く迄。イメージでは腕と靴にも感電防止を施し、雨上がりの水たまりの中、放電させるのが美しいと考えた。
子羊の傲慢
2月 27th, 2008 § 子羊の傲慢 はコメントを受け付けていません § permalink
供述
2月 13th, 2008 § 供述 はコメントを受け付けていません § permalink
あたしは、言ってやったんです。
床に落ちたものなんか拾って食べるのは、子どもの前ではやめてくれって。
もともと品がないのは、あたしも同じだけど。昔はそんなあの人の素振りを、可笑しくって笑っていたかもしれません。
最近は、特にあたしを見る目つきっていうんですか、蔑んでいるっていうか、何も見ていないっていうか、あの人の目玉に、あたしは映っていないようで。そりゃ五月蝿く言いますよ。靴下は脱いだままにしないでしてくれとか、お酒はそのへんでやめときなさいとか。あたしの財布から黙ってお金を盗るのはやめてくださいって。
家に人を連れてくる時は、人が変わったようによそよそしい。
子どもは可愛がっていました。でもいつだったか、自分で産んでいたら可愛さも違うだろうなとか言ってました。父親としての自覚なんかないんです。
頼りにはしていました。だめな人でも、家族3人で暮らしていければいい。他は望まない。
理由なんかありません。こうした日々を過ごしていて、風邪をひいみたいなものです。仕方がなかったとしか、今は言えません。
果物ナイフ
2月 6th, 2008 § 果物ナイフ はコメントを受け付けていません § permalink
いつも通りの出勤の朝、髪をわけ頭皮に爪を立てて少し頭痛が残っているかしらと、曇り気味のまだ薄暗い窓の外をしばらくぼんやりと眺めた。
ベッドの脇のランプを消す前に、黒いスケジュール帳を開き、
「あしたは水曜日」
と声を出して午前の会議の時間を確認していた。部屋を暗くしてから、暫く瞼を開けたまま、気持ちが妙に冴え渡り、眠れないかもしれないと棚のウヰスキーを睨んだところまで覚えている。どうやらこつんとそのまま寝入っていた。
紅茶の残りを流しに棄て、昨夜遅く口にした柿の皮を剥いた果物ナイフを洗わずにいたことに気づき、水道の水で刃に残った果肉を落とし、布巾で拭いてからキャップをして振り返り、通勤に使ってもう2年になる、草臥れてきているショルダーバッグの底に投げ入れていた。
会議の後は、部下の女性からの細かな仕事上のクレームを笑顔を受け入れていた。
就業終了の時刻まであと30分という時になって、上司から残業をしてもらえないかと、低姿勢に頼まれて断れなかった。2時間程書類を紅く染めるチェックの業務を続け、一気に仕事を片付けてから椅子に背を預けてゆっくり背骨を伸ばしオフィスを眺めると、若干の人気が残っているようだったが人の姿はなかった。
誰もいなくなったことで、気持ちの張りが抜け、化粧室に行きファンデーションを拭い落としてから、ハンカチを探すとバッグの底にある果物ナイフに指が触れた。鏡に映った瞼の回りから丹念に再び化粧をはじめていた。
両手の指先を内側に曲げての爪をみつめてから、窓のほうへ首を回すと、ガラスに雨が打ちつけている。随分前からさんざん降り続いた様子だったが、全く気づかなかった。傘を忘れたわと呟いていた。