果物ナイフ

2月 6th, 2008 果物ナイフ はコメントを受け付けていません。

いつも通りの出勤の朝、髪をわけ頭皮に爪を立てて少し頭痛が残っているかしらと、曇り気味のまだ薄暗い窓の外をしばらくぼんやりと眺めた。

ベッドの脇のランプを消す前に、黒いスケジュール帳を開き、
「あしたは水曜日」
と声を出して午前の会議の時間を確認していた。部屋を暗くしてから、暫く瞼を開けたまま、気持ちが妙に冴え渡り、眠れないかもしれないと棚のウヰスキーを睨んだところまで覚えている。どうやらこつんとそのまま寝入っていた。

紅茶の残りを流しに棄て、昨夜遅く口にした柿の皮を剥いた果物ナイフを洗わずにいたことに気づき、水道の水で刃に残った果肉を落とし、布巾で拭いてからキャップをして振り返り、通勤に使ってもう2年になる、草臥れてきているショルダーバッグの底に投げ入れていた。

会議の後は、部下の女性からの細かな仕事上のクレームを笑顔を受け入れていた。
就業終了の時刻まであと30分という時になって、上司から残業をしてもらえないかと、低姿勢に頼まれて断れなかった。2時間程書類を紅く染めるチェックの業務を続け、一気に仕事を片付けてから椅子に背を預けてゆっくり背骨を伸ばしオフィスを眺めると、若干の人気が残っているようだったが人の姿はなかった。
誰もいなくなったことで、気持ちの張りが抜け、化粧室に行きファンデーションを拭い落としてから、ハンカチを探すとバッグの底にある果物ナイフに指が触れた。鏡に映った瞼の回りから丹念に再び化粧をはじめていた。
両手の指先を内側に曲げての爪をみつめてから、窓のほうへ首を回すと、ガラスに雨が打ちつけている。随分前からさんざん降り続いた様子だったが、全く気づかなかった。傘を忘れたわと呟いていた。

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