見える

4月 17th, 2008 § 見える はコメントを受け付けていません。 § permalink

中学を出る頃から母親の私を見る眼差しが変わった。
気にしないようにつとめていられたのは、父親のいつまでもかわらない緩くやさしい視線が、帰宅の遅い父親の仕事のせいもあって、こちらにまとわりつかなかったからだと思っている。
通学の電車の中の香りのキツいコロンの男達の、地獄からもどってきたような目つきが、母親の中に見え隠れするようになり、こちらも食卓から逃げるように過ごすようになっていった。同じ頃から同性の友人達が母親と重なり、身重な女の蔑みのような眼差しを受けて、独りで部屋に籠るようになった。
この身体は見られる為に在るんだと開き直って化粧を覚え、鏡に向かうと、お酒に酔ったような投げやりな心地が大きくなって、勤め始めてからは、母親の瞳の中に宿ったものが、こちらの眼差しにも在ると実感することも何度かあった。草臥れていくことが成熟なんだと何度も諦める度に、無駄な脂肪も増えた。

仕事の関係で外に出た街角で仰いだ陽射しが眩しくて、暗がりの路地へ駆け込んで座り込み、暫く両手で顔を隠すようにして呼吸を止め、私の見える頭は、見られるこの身体のものじゃない。どうしてこんなにも違うのだろうと繰り返して呟きながら、嘔吐して下から小水を漏らしていた。バッグから取り出したハンカチで口を拭い路地の奥を見やると、小さな子どもが1人いて、ふいに足元の小石を拾ってこちらに投げるのだった。瞼の上にごつんと当たった。子どもは下品な家畜を眺めるような怒気を含んだ顔つきで睨み、きびすを返して走り去った。濡れた下着を脱ぎ、大きく息を吸ってコンパクトミラーで額を見ると、少し裂けて血が流れている。私は立ち上がり、数日前に結婚を申し込まれた同僚の男の、草臥れた背広を憶い出し、彼と一緒になろうと決めていた。

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11月 26th, 2007 § search はコメントを受け付けていません。 § permalink

ボンネットに落ちる雨音が止まった。フロントガラスに明滅していた小さな水の花火は消え、流れの筋が白みかえた景色をその幅だけクリアに垣間見せた。
冷えたバーガーを喉へ押し込み、ペプシで流し込む。
とりあえず身体を動かせる為で味など無かったが、顎を動かし続けた。助手席の足下には、2日分の補給で放り捨てた空のペットボトルとハンバーガーの包装紙が重なり、そこへビリビリと振動が伝わる携帯を拾い上げると、メールと着信履歴が同一名で累々と並んでいる。閉じて再びゴミの下へ戻す。幾度か咳がでた。
フロントミラーを手前に曲げ、ハンバーガーのケチャップがついた髭と顎を指で擦り、リアガラスに映り込んだヘッドライトの破片が瞼に飛び込み、眉間の間を指で押さえて弱く緩慢に続く頭痛を堪えた。
2センチほど開けた窓の隙間にクチビルを尖らせて近寄せ、白みかけた外気を縮んだ肺に吸い込んだ。
田舎の梅漬けのような香りが少しした。


美食とかグルメとか言って、デロデロのぬらりひょんなものばかり喰っているから、最近の女なんぞ、顎がこう細くなっちまって、ベロばかりでかくなっちまって。UFOに乗って飛んでっちまえってんでぇ。
あたしゃ戌年だから、バリバリ音が脳天まで響くような骨っぽいものが大好物なんだが、そんなもの歯に挟まるだとか、卑しいだとか、獣呼ばわれされちまいましてぇ、獣って言われてみればそのとおりでございますが、わけわかんないよぅ〜

ラジオから鮮明に、若い噺家だろうか、DJの声がふいに聴こえてきて、先ほどまではそういえばオーケストラが弱く鳴っていたような気もした。
ワイパーでフロントガラスの筋を拭ってから、脇の携帯双眼鏡を手に取って覗き込み、相変わらず閉まったままの、50メートル程先のマンションの地下駐車場を確認してから、5Fの角部屋の窓へ垂直に覗き穴を上にスライドさせた。
「かわりなし。わけわかんないよぉ〜」
と呟いた。

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