まだ闇を混ぜ砕く粒音が頭蓋を震わせる墨中景薄ぼんやりと揺れて誘う白帯の儚さの黒々とした砂浜の泡筋まで千鳥足でひき寄せられて膝までを崩し落とすとまずは腰から下の夥しい数の裂けた傷が潮で溶かされて皮膚の下を染めるように広がる徒な肉を直に逆撫でる悪意というより獰猛毒に似た痛みに奥歯に音を立て胃袋からの呻きの塊を宛ら折れた歯を吹き出すかに辺り構わずぼろぼろ零す。だがこの時、男の面縦横の目にみえないもので縛り続けられていた険しい張りつめた表情から緊迫がすっと消え、内側の肉の膨らんだ弛緩の顔へ変貌する脱力を借り尾骶骨を垂直に支えていた上からの綱を自ら唐突に断ち切る行成りさでぺたんと骨を崩して座し、終焉か始まりかわからないまま闇雲に目指した場所に到頭膝を折り畳んだ。辛うじて砂へ突き立てた両腕の骨に走破の残精の重さを軀を震わせながら預け背肉が緩く微動する弓曲の姿勢でやや上目遣いの眉を曲げ辺りの様子は見えるわけではなかったが男の走りの中で数多繰り返された広がりの理解は、此処の濃密に充満する介錯の気配が近寄る香りと巨大人の小水の異様を放つ泡波に撫でられる膝小僧と待ち構えていたかの身を渦状に巡る重く振動する音場自体に在った。見上げても天が定かではないのは海辺にぽつねん生々しい山ノ肉を黒烟が覆っているからだったがこの墨は自らの血肉毛穴から垂れ流しの気配の足で森の戒めやらを引き連れてきているからだと弁えた男は山ノ肉が潮に融ける時を待つように瞼を閉じる。光など必要ではなかった。 » Read the rest of this entry «
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