特異普遍ノ地動

5月 26th, 2014 § 特異普遍ノ地動 はコメントを受け付けていません § permalink

 日が暮れはじめ臑まで田に差し泥の滑りをようやく艶やかに感じ取って腰を伸ばした女は額に解れた髪を中指で耳の裏へ寄せ赤く膨れた輪郭の定かでない夕陽を細めた瞼の奥でわたしのようだと見やって弛緩を許し田植えの夢中で漏らしたかもしれなかった股に手を差し込んでやや濡れた陰部に嘗めて泥を落とした指先で深く触れ樹々の影が重長い闇を含み始めるのをみつめて吐息を漏らす。怠い迷いのような胸の内の塊を捻り潰すように赤ん坊の泣き声のする背後に半身をねじって振り返り股から抜いた指先をちゅっと音をだして嘗め泥から足を抜き、はりついた蛭を三つ同じ指先に泥を絡めてから剥ぎとった。 » Read the rest of this entry «

目眩ノ光デ憶エテ

5月 8th, 2014 § 目眩ノ光デ憶エテ はコメントを受け付けていません § permalink

 引き戸を後ろ手に閉めると、金属質な籠りの中植物が鼻孔から瞳の奥へ薫り差し瞼が潤んだ。あの頃は流れよりも低かった記憶がある校庭の北側の河原の土手をダンボールで滑り落ち、笹の繁みの中で緑色が滲んだ擦り切れた膝小僧を嗅ぐ身体の形が皮膚の下に弱く広がった。深く吸い込んでから呼吸を整えて目を凝らしたが、日用品の並ぶ店の中にはそれらしいものは見あたらなかった。  
 雨の残りが俄に降って、駆け込むほどではない軽いものだったが肩は皮膚までとどいて濡れた。知らぬうちに身体に染みたのかなと袖口に鼻を近づけると、手の甲に黒いものがぽたんと垂れた。  
 ほんの数分前、互いに驟雨に小さく慌てたのだろう、赤い長髪に隠れた華奢だが固い肩が額に当たり顔を顰め、妙に女性的なコロンの香りが鼻につく使い古されたツナギ姿に身を構えたのだったが、意外に繊細な柔らかい声でスミマセンと頚だけを曲げて頭を下げられ痛みは和らいだ。背丈のある細い身体の背中に石材店が印刷された文字を読んで、走り去る姿に、石というのはつまり墓なんだろうなと印象と認識が揺らぐ一瞬を遊ばせるように空を見上げ、細かい雨の落下に暫らく顎を預け、眉間に焼き栗を乗せたような甘い痺れを丸く放置していた。
 手提げから出したタオルで手の甲、口元を拭ってみると思いのほか赤く汚れ、喉内まで血液の名残りがあって、雨露に薄められ余計に広がったかなりの量が胸にまで落ちている。鼻を啜ってから、でもやはり、この濃厚なミドリイロは近くから流れている。 » Read the rest of this entry «

Where am I?

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