風斥時頂賦

2月 25th, 2016 風斥時頂賦 はコメントを受け付けていません。

 隆起硬化の大いなる静まりがまず悠々と在り、その決壊をある時一粒の雨水か垂直に走った稲光かがそっと促し、谷の木霊を全て潰す魁偉な音波を地へ差し底へ崩落した重量が始まりには勝り、流れに抗う態の頓無く過ごした膠着を塊自体内側の質に滴り沈下させたのは、幾度も根付いた樹木を振り払いあるいは媚びるかに寄生割礼されるがままだったからで、やがて風雨雪や併置類型の倏忽激突も加わり自らを理へ粉々放り下った千荊万棘回転研磨のこれまた長い想像の届かない運動の時を経て大海の波に揉まれて打ち上げられる。否その中途でもある揚句の偶さか、ヒトの掌に乗るこの星の相似態と成った石ころを浜辺で拾う。男は季節を測る時を擱き、風の吹く日に山の縁を渡って一昼夜走るように歩き降り、過去より幻妖色が祭儀に使われた結晶の転がる海岸に着くとそれら貫入の果てには見向きもせず遠い街の蜃気楼も朧のまま眺めから捨て去って首を垂れたまま崩壊の砂中に立ち海辺に暫くは野営する覚悟で切り立ったあの谷の断崖絶壁を忘れない。半年前に手にした萎れた蔦が千切れ谷の流れに身を滑落させ流れの底の岩刃で傷を負い再び潜って砕けたままの硝子のような粉砕岩の光景を前にして時を掴むという言葉が男に生まれたのだった。

三日目には浜から磯場へ移り波打ち際の岩陰を探るようにこれもひとつの入口かと溟渤へ潜る。拾い上げた魚貝を焚火で喰らいながら波音にようやく耳を与える夜となり、繰り返し打ち寄せる反復の響きが男のどこか切迫した昂りを融かすような夢を与えた。磯では掌に乗せることのできないものばかりだったからか海中の尺度に迷わされて別の砂浜に戻り、やはり玉という辿り着きは、更に長大な濁流と不易な波の繰り返しが必要なのかと諦めかけた八日目の夕暮れに腹も減って水に入る意気地も萎え何気なくあぁと稚拙に郷愁の声をかけて差し伸べ取り上げた砂浜の漂流樹片に隠れ埋まってまんまるくひとつが在った。変成の組成の加減もある。積もった塵が今此処という成れの果ての形象の、まるで喜劇のような悲劇でもあるかもしれない顕われは、漸く正しい球だった。如何にも時間の仕業である荒礫の凹凸が一部分にのこり深く細い穴もある。滑らかな曲面ではないけれども、球であり玉であると夕陽に重ねてその正円を確かめる。みつけてみれば呆気ないがこの清さは累々と転がっているわけではなかった。加工という人為は妄誕だという直観を解く風に背く歩みの内で、類似の加工物ばかりか行う者の熱心な目付きまでが浮かび上がったが、人間の厚情の出来事への介入は、世界の大いなる時の流れの冒涜であり時を掴むことはできない。事実ヒトの荒唐ばかりが遺されている。世界の薄情そのものがそっくりぽつねんと体現されていなければ、もの自体とこちらが歪みなく清潔に等価に隔たる距離は生まれない。対象の純度に併置された意識は時空を跨ぐと男は予感に包まれている。探索の倦怠に荒む時砂浜に足首を埋めたまま男は繰り返し呟いてふたたび浜を弄る。とはいえ思いがけず短い探索の間に丸くはないが手に取り撫でてしまって綻んだ小さな執心のかたちが幾つもあり、これは遠路と探索の足と慣れぬ海風が醸す迷妄が促したか山人の好奇もあったか、浜辺の焚火の縁に並べ置き溜息を添えた短い睡眠を共にしたからかもしれない。選に洩れてはいるけれどもけれどもと繰り返し囁いた疾しいものを幾つも背に背負ったまま茫洋と海辺を彷徨う姿へ遠くから気が触れていると指差す海人たちがいた。背は重苦しいが掴んだ玉はこちらを労るように懐の肚の上に弾むのがわかる帰路では干魚をしゃぶりつつ高みへと昇り戻れば昇るほど意識が澄み渡り股の中握った金玉と比べ球体自体の重さに気づくのだった。不意に切り刻むか陽に干した老人を小さく畳んで処女の子宮に押し戻す翻倒遡行の情景を浮かばせた峠の茶屋では行商の素振りでひっそりと黙り込み冷えた麦茶を幾杯もおかわりをして、なりそこないの不出来な数々を並べて其処に横たわる自らの死床を拵えてみようかと、不完全な疾しさは相応しいが、寝床にしては数が足りない。笑いを加え玉をそっと握り立ち上がる。人差しと中指がふたつ根元から欠けているので、残ったみっつの指でその玉を支え上げ、これを山の頂で陽に翳すことを決めていた。そもそもこの言葉の生まれの持続気概は失った指触れの残滓が与えたようなものだ。山人は森を厳正な距離で捉える為に外に放られた山の果てを大洋から舞い戻らせて自身に刻む衝動に従った。海岸に打ち寄せる樹木片を同じ目つきで焼けた皮膚の海人が見下ろしていたことを憶いだす。山に戻って休むこともなくまだ昏い早朝に峰を昇り頂の岩に座して星々の瞬きを見上げ、既に存在が無に帰した光年という距離は見上げれば済むのだなと呆れつつ陽光を待つ。雲海から差す光を浴びた流転の球を欠損したふたつの指先がまるで光年の辿りのような感触を恢復させその源へと撫でている。おそらく同じことを万年を隔てた在りし日に誰かがしたに違いないと思う男の額を、闇の残る方角から二律背反が混じり合う風が流れ来る。

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