謬愛の地

10月 21st, 2012 § 謬愛の地 はコメントを受け付けていません § permalink

牛蒡の根を銜え横腹の痛みを堪える男は二つ谷向こうに下った山崖に手のひらの格好で浮く窪地の小さな集落縁に在る倹しい家に残した妻が朝方子供の頬を平手で打ったことを思いだし唾を吐き水の引いた淵跡に近づくと犬の首に紐を繋げる。束縛を厭う犬は小さく歯茎を捲り唸ったが男の手で頭を小突かれ地に尾と顎を伏す。大きな者に吹かれて流れ去った白霧が残した朝露に濡れた犬の腹を撫でた指を舐め男はまた牛蒡をしゃぶる。つま先で吸い込まれた水の形を残す地を掘れば濡れたものが見える。雪解けから初夏迄窪みに水を張る涸淵は水が地に吸い込まれてからまだ然程時が過ぎていない。 » Read the rest of this entry «

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