枕にしていたクッションから頭がずれて床に頰を潰したようにしても痛みなど感じずに熟睡していた。テーブルの足の向こうに衣服がたたんで重ねてある。口もとまで包まったタオルケットのつま先あたりには窓から射込む朝の光がなにかをこぼしたように広がっていて、そこだけ温かかった。フローリングの目地に沿って身体は動かさず目玉を上にやると頭のすぐ脇に、飲み残したワインの入ったグラスと、小さな皿には白いチーズがあった。幼い頃飼っていたシロという犬を憶い出した。あの子もこうして目を覚ましていたのかしら。またシンクに寄り添うようにして寝ているわ。由子は呟いた自分の声が、自虐と逆の響きであることに満足した。 » Read the rest of this entry «
シンク
2月 28th, 2010 § シンク はコメントを受け付けていません § permalink
勝気
2月 23rd, 2010 § 勝気 はコメントを受け付けていません § permalink
「身の程を知った負けん気なら可愛いよ。俺は駄目だって笑ってくれるほうがよっぽど頼もしい。あの人は違った。些細なことで負けたくないし、謝りたくないのよ。俺は今まで誰にも謝ったことはないなんて偉そうにいうのよ。ぷってふきだしちゃった。あんまりにもダサくて」
女は、足下の濡れたバスタオルへ視線を投げ、素足で横に押しやった。玄関まで続く床は、大量の血液が中途半端に拭いてある。黒いようなタオルを足で拭き取りながら椅子に座ったところまでひきづったのだろう、爬虫類の歩行の痕跡のような生々しさで室内灯の反射を受けて、匂い立つようだった。 » Read the rest of this entry «