12月 13th, 2009 § 指 はコメントを受け付けていません § permalink

 列車からプラットホームに降り立ち、この街を囲む山並みから吹き下ろされる風という より大気の移動に身体を包まれると、全身の毛穴が広がって、豊かで力強い樹木の存在を感じた。 季節はずれの炬燵の中で瓶にひとつ仕舞っておいたものに鼻を突っ込み細くはなったが 思考を切断するような臭みの消え失せるまで嗅いだのはいつだったか。これは糞だと吐き捨てる倒錯を香りに加え、夢中になって拾い集め指先に染み込んだ銀杏の匂いが、どこか 近くで立ち上った焚火の香ばしさと交ざって運ばれ、数年はこの臭みを身から失っていた ことに気づいた。朽ちていく季節の欠片を萎えた肺がゆっくり膨らんで、細かな細胞の記 憶を刺激し、濃密な酸素が全身を巡る。 » Read the rest of this entry «

卓袱台

12月 13th, 2009 § 卓袱台 はコメントを受け付けていません § permalink

 引き戸を後ろ手に閉めると、金属質な籠りの中、植物が鼻孔から瞳の奥へ薫り差し瞼が 潤んだ。河原の土手をダンボールで滑り落ち、笹の繁みの中で緑色が滲んだ膝小僧を頬に すり寄せた身体の形が皮膚の下に弱く広がった。深く吸い込んでから呼吸を整え、目を凝 らしたが、店の中にはそれらしいものは見あたらなかった。  
 雨の残りが俄に降って、駆け込むほどではない軽いものだったが肩は濡れていた。知ら ぬうちに身体に染みたのかなと袖口に鼻を近づけると、手の甲に黒いものがぽたんと垂れ た。  
 ほんの数分前、お互い驟雨に慌てたのだろう、今時の赤い長髪に隠れた華奢だが固い肩 が額に当たり顔を顰め、妙に女性的なコロンの香りが鼻につく白いツナギ姿に身を構えた のだったが、意外に繊細な柔らかい声でスミマセンと腰を曲げて頭を下げられ、痛みは和 らいだ。背丈のある細い身体の背中に有坂石材店と印刷された文字を読んで、走り去る姿 に、石というのは、つまり墓なんだろうなと一瞬印象と認識が揺らぐのを遊ばせるように 空を見上げ、細かい雨の落下に暫らく顎を預けると、眉間に焼き栗を乗せたような甘い痺 れが丸く残っていた。   » Read the rest of this entry «

Where am I?

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