異形

7月 12th, 2009 異形 はコメントを受け付けていません

 短髪の襟足がコンビニの入り口から水平に差し込む夕日で金色に光り、ノースリーブの肩から二の腕の産毛も同じようにきらきら透き通った。
 青い短パンから細く伸びた足はレジの前で交差され、声をかけられて入り口に立つ男友達に向けた横顔に立体感を与える健康そうな歯をみせて微笑んだ。近寄った若い男の声ばかり際だち、女のそれはあまりに細いので聞き取れない。籤に当たってヨーグルトを受け取った女は、わ。と一言喜んだ。

 女学生のような黒いスカートと白いブラウスで、襟元のボタンをふたつほど外し、顔に不似合いな太い黒縁の眼鏡のわきを親指と人差し指で持ち上げるようにしてから、顔を前に突き出した口にトンカツをくわえて、顎を上げた。頬にはソバカスがあり、肌はブラウスよりも白い。食事中すみませんと達郎は声をかけた。

 どちらも二十歳前後の女性だった。OLだろうか。高校生だったかもしれない。年齢は尋ねなかった。一度怪我や瘡蓋や夏の太陽に焼かれて引き締まったようなこどもの鎧の皮膚を一夜で脱ぎ捨て、再び羊水を浴び産まれたばかりの危うい薄さの皮膚に着替えて間もないような儚さに纏われた皮膚と見え、触れることはできない。そんなつもりはなかったが最初から諦めるしかないと思った。

 どちらも達郎の両手の指で作る輪の中に収まる腰の細さで、かといって少女の面影を棄て女を選んだ決心のみえる腰つきであり、共にこれまで話したこともない種類の「女」だった。そしてふたりとも達郎に、あなたのような無礼な「男」の人ははじめてと後に語った。

 青い短パンの女はミノリと名乗った。カメラを差し出してあなたを撮影したいのだが、少し時間をいただけるかと尋ねると、男友達にみせたものと同じ笑顔に当惑の丸い輪を瞳に足して、なぜ?と答えた。
 すぐそこに空き地があるから。指を指して歩き始め建物が取り壊されたまま草も刈られていないへこみの前に立ち振り返ると、声をかけた場所に立ち尽くしたままだった女は、小走りで近寄り、名を名乗り、あなたはと尋ねた。

 女学生のような女は最後まで名を名乗らなかった。自分の自転車があるというので、アスファルトの車道を二度往復してもらい、これでいい?と自転車に跨ったまま達郎の前に止まり自分の腕時計を眺めた。名詞を差し出すと、眼鏡を直しながら近づけて、文字が小さいわと達郎の名前を読み上げた。面倒なことから解放されたと臆面もない表情で私から電話するとだけ言い残し、ふくらはぎの筋肉を固く膨らませて走り去った。

image

Comments are closed.

What's this?

You are currently reading 異形 at edamanoyami.

meta