「残酷な事は理解されること。君のことはわかっているって言われることよ。分かち合えない。他人だと言われることが、もっとも優しい言葉だわ」
礼子は、ピーナッツを口に放り入れた。
真っ昼間からカクテルをもう5杯目で、少し呂律が回っていない。
「面倒くさいよな。あれこれ」
光一も、ウヰスキーのおかわりを注文し、グラスの氷を口に頬張ると、
「あなたも同じね。異質なものへこそ丁寧にアプローチするものよ。ろくな大人になれないわ。期待しているわけじゃないけど」
俺は大人じゃないってか。光一は気にも留めず、ウエイターの運んだ新しいグラスの中に指を入れてかきまぜた。
礼子は、頬を赤く染めて、独り言のように、
「だから家族がもっとも残酷なのよ。一番近くにいて他人と認めないから」
光一はこいつはなにとんがったことを言ってんだと思った。泣いたら抱きしめてやるぜ。それが優しさってもんじゃないのか。光一のココロを読んだように礼子は、
「光一って名前はいいわ。ひかりってのがいいと思う。でも、あなたは自分に興味を持っていないというのが最悪。最低の欠点よ。死ぬまで変わらないだろうけど」
「喧嘩を売ってんの?」
「愛の告白よ」
礼子は澄ました声であっさりと言った。