目と身体−1(インタビューに答えて)

11月 26th, 2008 目と身体−1(インタビューに答えて) はコメントを受け付けていません

森山さんと会ったのは、海ですよ。私がビキニの陽に焼けた女性たちの水しぶきの脇で屈んでリュックにね、拾い物を選んで砂を払って汚れを落として、いつものヤツをやっている時にね、何をしているのか声をかけられた。
こちらも普段着だと目立つから、泳ぎもしないのに海水泳の格好だけはしていましたが、リュックが可笑しかったのでしょう。

骨のパーツがほしかった。実際の骨でもいいけれどなかなか手に入らないのですよ。買うのも馬鹿らしい。当時は、まだ私のこの取り組みも未成熟で、少々気も振れていた。女房が逃げた後でした。私は平気だった。良太をこしらえればきっと戻ってくると信じていました。えっ? 三十三だったです。

人の声など耳に入らない時でした。夢中というより、取り憑かれていた。森山さんに、返事をしないのは失礼でしょう。と窘められて、振り返りました。まだ、そんなに強気ではなかったんでしょうね。否、私がですよ。どこか怯えるようでもあったと、森山さんから後で聞きました。

もともと大工の父親を見ていたから職人気質があったようです。小さな庭にある小屋も、父親が造ったもので、そこは道具置き場だったのですが、小さな机があって、時々細工物も拵えていた。それを眺めていました。小屋には絶対に入るなと覗いていても怒鳴られましたが、私は、二、三度、否、もっとかなあ、小屋の鍵が掛け忘れられた時に、よく研がれた鉋や鑿に近づいて、光が鈍く反射するのを、化け物を見るような気持ちでみつめていました。

夏が終わってね、浜に人がいなくなった時期に、再び、というより、あの時は何度も海に通ったなあ。とにかく、人気の無い浜辺を例によってまた探していると、遠くから声をかけられた。道路に車が止められて、ガードレールの向こうから、手を振っていたのが、また森山さんです。これが決定的だった。

最初に声をかけられた時は、詳しい事情は何も話さなかったです。二度目の時に、食事に誘われまして、こちらも腹を空かせていた。(笑い) 岬の先端にあるレストランへ誘われてね。森山さんは、この時家族連れで、りっちゃん、あ、お嬢さんの律子さんと、奥さんの愛子さんと一緒に、テーブルで食事をするのがなんだか照れくさくてね。お嬢さんは質問ばかりするものだから、困りました。(笑い)

わかりやすいでしょう。外からみると。理由がはっきりしている。でも実はね、逃避なんですよ。最初からこれは自覚していた。もともと良い父親ではなかったし、なれたかどうかもわからないんです。子供の面倒は妻に任せっぱなしで、中途半端な不満を抱えて仕事にも熱中していたわけではなかった。同僚からは仕事熱心だと云われました。夢中というより終わらせなければ次に進めないから仕方なく地味な作業を残業が続いてもかまわず引き受けたからでしょう。こういうことをするために生まれてきたんじゃないなんて青いことを絶えず考えていました。

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