西川はビル開発部ビル開発室から観光地開発室へ移動になり、下北沢のワンルームを引き払った。居残った狡賢い同僚は腕時計をチャリっと鳴らしてリストラに比べたら儲けもんだと囁いた。ゼネコン一般が低迷し、土地価格も下がりマンション購入者も激減する中、観光開発室の部長は、こんな時だからアイディア次第だと、無精髭と強いコロンの腕を西川の肩に回して曖昧に迎えた。この県では不動産デベロッパーとしては老舗の部類に入るが、最近の透明化により思惑が上下構わず錯綜し、他を覗いても責任を分散消耗させる手法に則った移動する人間が多かった。三十を過ぎて、会社に献身する意味を失い、いずれ自立することを考えていた西川にとって、現況の自分の置かれた状態よりも、少し先の未来を身体で予感して業務形態を刷新した新しい経営の軸となる考え方を、どこでもいいからじっくりと考えようと決めていた。
大学の頃から付き合っていた恋人にも、ボーナスカットの話をした時に浮かない表情をされ、その年のクリスマスにもう別れましょうと言い出された時には、むしろ肩の荷が下りた気がしていた。
開発
9月 15th, 2008 開発 はコメントを受け付けていません