佐々木

5月 28th, 2008 佐々木 はコメントを受け付けていません

誰も語らないのは、あえて語らないのではなくて語れないにすぎない。ことあるたびに共有した記憶の開示を無理強いするようにかつて語り得た友人たちに嫌な顔をされながらそれを無視してごり押ししていたのは私のエゴのようなものだ。中年を終える年頃になって佐々木は自分が気づかずにいる我侭な無邪気の根拠を考えるようになった。
思えば、多くが既にこの世から消えて名残りすら無い。肉体の欠片とは云えないが寄り添った残されし近親の人々は、だが、消えた人間自体ではない。すでに消滅した人間の何を明らかにしようというわけでもなく、ひとつの話題として抱き寄せる必要など、こちらの生活にはまるでなかったが、佐々木の瞳が閉じられる瞬間に現れる「罪の意識」には、消えた人間が多く寄り添うように囲んでいた。
実際、佐々木には幾つかの他愛ない秘密がささやかな後ろめたさとともにあり、それは長年収集したコレクションなどよりも深いところで佐々木の魂の一部分を形成しているといってよかった。

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