弱い木枯らしが足下に寄せ、地面の舗装面との乾いた摩擦音を、不連続にかさこそと、儚さの塊のような風情で転がってきた小振りの枝を、祐介は、拾い上げた。良い形をしているとか、偶然が気持ちに含まれたなどというわけではなかった。手首の腕時計から促され、教室に戻り始めた大学構内の校庭の、脇にある道沿いで、ただ拾っていた。思ったよりもまだしなやかさのある手にした枝が、どういった種類の樹木であるかわからなかった。
30分という時間で何か素材を探す課題をうけて、教室から外に出ることが、学生という立場、身分のものにとって健やかな弛緩を与えた。大学進学という自らが選んだ拘束に出資している将来への展望よりも、祐介は愚痴のようなリスクを考えては友人に笑われた。首を傾げる姿勢を続ける聴くばかりの講義よりも、このような個人の能動を評価の対象とするというのは悪くない。校庭でソフトボールをする人間をベンチでぼんやり眺め、かといって頑張るパッションを稼働させるには季節が悪いと思った。
一旦教室に戻って、早々に作業に取りかかっている他の学生の、楽しそうなざわめきの中机の上の枝をどうしたものかと暫く眺めた。見つけてきた素材でなにかをつくらねばいけない。与えられたテーマはない。全く自由であるが、時間内の作品提出と同時に90分の行動を説明しなければいけない。後日制作説明に対する講評を加えたレポート提出し採点評価される。級友たちは、あらかじめ準備してきた絵具で拾った石に顔を描き、あるいは画用紙に拾ったゴミをコラージュをしたり、木片に鑿をいれて人魚のようなフォルムを掘り出す者もいた。祐介は、半ば感心して級友たちの、真剣な手つきや眼差を眺めていた。
90分の時間を、準備に30分。制作に30分。作品説明と講評に30分を割りあてられていた。制作時間が残り10分ほどとなって腰をあげ、祐介は教室を出て購買にて虫ピンを買い、戻ってから壁に枝を、虫ピンが見えないようにとりつけて、教室の入り口まで戻りその様子を眺めてから歩み寄り再びとりはずし、窓の形が午後の日差しを抜け影を描いた場所に設置場所をかえた。赤い布テープをそこにふわっと絡ませて乗せるときに、何度か繰り返した。十数回繰り返して、諦めたような仕草でおしまいとした。ベンチに座った時、誰か女子学生のものだろうか、髪を束ねるために使ったのかもしれない。放られてあったものを手にひらにまるめ鼻に近寄せて匂いを確かめてからポケットに入れていた。
つぎつぎと級友たちの自己正当化する作品説明を聞きながら、お前たちはみんななんて分かりやすいのだろう。と祐介は考えていた。同時に自分の番が回ってきた時に、何をどう説明すればいいのか、途方に暮れた。案の定、壁際に立った祐介を見つめる数十の瞳には、手抜きしたなという薄笑いが滲んでいた。
「窓の影が落ちた壁に拾った枝と赤い布を置きました」
それ以上加えることのできなかった短い説明に、それって何だと級友たちの野次のような批判が重なったが、祐介はわからないと答えた。