橋の下

9月 17th, 2009 橋の下 はコメントを受け付けていません

太い腕には内側に入れ墨もあった。鼻、耳、唇にピアスが突き刺さり、腰には鎖をじゃらじゃらぶらさげた、語尾を上げる大きな声の男が煙草を吸いながら、髪を青く染めた痩せた未成年らしい年下を時々蹴っていた。あれだって二十歳そこらじゃねえか。時々というのは、年下のやらかした不手際に怒って説教をしながら歩き回り、2分に一度は蹴った。1時間はそうしていた。2分というのは、あたしは計ったから。腕時計で。ストップウォッチで。だから顔とかは蹴らなかった。そんなことしたら気絶して説教聞けなくなるからね。

橋の下で寝泊まりしてまだそんなに日にちは経過していないと何度も繰り返すホームレスは、芝村一男というしわくちゃの印刷会社の名刺を差し出してから、それしかないから返せと懐に仕舞った。煙草と缶珈琲を買ってこいと要求してから、なにしろ話し慣れていないからねと続けた。

青い髪の子供は、我慢強いというか、うたれ強いっつうか、さっさと倒れればいいものを、健気に何度も起き上がっては正座してさ。俯いて声ひとつ出さないわけさ。
ピアス野郎はそれが気に入らないんだろうね。靴の爪先で狙うように蹴る。周りには薄笑いを浮かべた仲間が結構いたな。ほらここからだと、あの柱で隠れるから全部で何人というのはわからないよ。誰も手をださなかったよ。周りで見ているだけ。
いつまで続くんだと思ったよ。あれじゃ死ぬわ。警察が来ると嫌だなって思ったね。だって追い出されるからね。え、大丈夫。そりゃよかった。いずれあと数日で動くけどさ。電車で他所に行く予定なのさ。

ピアス野郎の仲間だと思っていた子供がね、一番背の小さな子供が輪から離れて河原に歩いてさ、両手に石を持って戻って来るのがみえた。他の連中は気づかなかったと思うよ。何気なかったから。その子供がさ、輪に戻って行ってピアス野郎の後ろに立って、まずは片手の石を地面に置いた。ひとつは持ったまま。あのガキこれで仕留めてくれってアニキにお願いするんじゃねえだろなと思ったら、入れ墨男の肩を、ぽんぽんってたたいた。ねえねえという感じだよ。説教も途切れがちになってた野郎は、なんだと振り返った。その餓鬼はなんだかんだと小さくちょっと口にしたようだったが、ここからは聞こえなかったね。そしたら餓鬼が野球のピッチャーみたいにフォームをして、ピアス野郎の目に尖った石を打ち込んだのよ。殴った瞬間に血が横に飛んだ。ぱん。って音がしたから目ん玉が破裂したんじゃねえか。ホースで水まくだろ。あんな感じの細い血がシュッと横に吹いた。ピアス野郎は顔面を押さえてぎゃーと叫んだ。背の小さな餓鬼は、その入れ墨男の顔の手を左手でどかすようにして、風呂から水が溢れるように血が流れてる目を狙うように、更にがっ。がっ。って打ち込んだ。三度目は、地面の石と取り替えた。6,7回は続けた。三度目には、ピアス野郎は地面に倒れて、最後には声も出なくなった。7回目は、膝ががくんと動いただけだった。
周りの連中も、あたしも、身動きできずって感じだった。なんか新聞配達の子供の背中を見ているようだった。

あの餓鬼、石で殴りながら、ほら逃げるなよぉ。手をどかせよぅ。と小さな声で唄っていたらしい。あとで立ち尽くしていた連中のひとりに聞いた。何喰わぬ顔で川で手と顔を洗ってた。

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