明るくなる前に強い風が流れたようだった。濡れたテーブルの上の瓶が倒れていたので、瓶の形に助けられた残りを勿体ないと立て直し、そのまま口につけ思わず流し込んだが喉元から下が受け付けない。土の上に吐き戻してから瓶の中身を地面に注ぎ落とした。霧が晴れても雲と溶け合って残り、今日は陽射しは望めない。腰を下げスニーカーの解けた紐を結び、岩の間から炎の残りを紅く見てから、根拠なく樹々の枝が消えて広がる空を見上げつつ思った。
焚き火の上に金網を乗せ、魚やら肉やら野菜を焼いて酒を呑み、そういえば近くで臭ったぞと暗闇の中木の根本まで歩き、指先がきつく匂いを放っても酒の力で笑いながら、指先を舐め銀杏を拾って焼いていた。
なんだか最期の晩餐のようだと誰かが口に出すと、最期って一体何の最後だ。と皆が考え込むような時間があって、やはりまた同じ者が、やはり最後のようだ。と呟いた。
曇天と霧の名残が、数時間前の焚き火の炎を受け止めて、時間を緩やかに繋ぎ止める。これが快晴であったなら、散らかした庭のテーブルの上になど見ることもないだろう。辺りを歩き、小枝を拾って座り込み焚き火に組み上げると、しばらくして煙が細く立ちのぼり、下にまた動く炎が小さくのぞいた。
「冬の音ってやつは録れたのか」
息を吐いて白いよと笑顔をみせる青山が煙の向こうから声をかけた。
2008年11月10日 17:27