「嵐の夜にセックスをしたカップルがその翌朝、こんな掃き溜めの港を眺めるってどうかしらね。まだ残っているのは波かな。こんなにもプカプカ集められてる」
台風の去った翌日、窓を開け眩しい朝の輝くような陽射しに誘われ、ベットのタオルケットから放り出された羊羹のようにぷるっと張ったようなナナの足をぺんと叩いて、健一はでかけよう。ブレックファスト。と声をかけた。ナナはタオルケットの中に身体を丸くした。健一は面白がってタオルケットを引っぱり丸いナナの身体の上に飛び乗ると、ナナは子供のような香りを広げながら身体を開いた。
「どうするんだろう。行政が動いてこうしたゴミを収集するのかな。海上のものでも」
健一は、埠頭の丸い綱止めに座り、マックの袋から直にポテトチップを口に運びながら、珈琲をちっと熱がった。
「東京は朝が汚いよね。路肩にゴミ袋が盛り上がって。慣れてしまっているけど、アタシはゴミ溜めを眺めないようにしている。寝坊でしょ」
ナナはフィレオフィッシュをちぎってアイスミルクが白く唇に残った口に入れながら、
「眺めるとみつめてしまうのよ。なにか見てはいけないものが紛れているようで。あと少しでそれがみつかりそうになるから、はっとして眼を逸らすわ」
「ああ、ありそうだな。わかるよその感じ。ゴミって事件性そのものだよな」
埠頭の先端では数人が週末の早朝の釣り竿を垂らし、沖合に白いヨットが音もなく滑っている。ふたりは互いの存在に依存する安心を使って目の前に集められた浮かんだゴミを、何かを探すような目つきを泳がせるようにみつめながらしばらく黙って口元を動かし続けた。