腰まで流れに入り長い竿を垂らしていた釣り人が振り返り、岸辺に集まってきた。近くの橋を渡る人間も柵に凭れて並んで眺めている。中には下校途中の子どもたちもいた。一樹の新しいスニーカーを見て大山は、紐は中に入れておいたほうがいいと足下に座って手を出し、俯いたまま石ころのある所は避けろ。走りゃ相手は追いかける。
紺色の体育の時間に着るジャージという軽装で、他は何も携帯していない。各自ポケットから包帯を取り出して河原に座り手首に巻き始めた。佐藤が巻き方がわからないというので、大山が皆に向けて俺のを見てろと自分の左手を巻き始めた。柴田、青山とバンテージを巻き終え、ポケットから紙切れを取り出して大山に差し出した。大山は、青山に向かって、視力は書かなくてもいいんだよと皆を笑わせた。
大山は経験があり年上であったから、何かと皆の世話を焼く立場に回った。黄色のジャージの中牟田の連中も姿を現し、一樹達の近くに来て同じように、バンテージを巻き始めた。大山は皆から預かった紙切れを持って、中牟田の安藤の元へ近寄り、互いの紙切れを眺めながらこれとこれかと小さく囁き合った。紙には身長と体重と名前が記入してあり、同じような体格を並べ相手を決めた。
一樹は、中牟田の連中は思っていたほどではないなと、痩せて手足ばかり長い自分たちを棚にあげて、足首や手首を回し、軽く跳んでストレッチをはじめた。大山が組み合わせを読み上げ、一樹は二番目に中牟田の桜井と殴り合うことになった。
「さあ、始めるけど、決まりは守る。昔、全員で乱闘になって警察の世話になった。痼りも残ったらしい。そういうことなし。ふたりだけが殴り合う。急所は狙うな。卑怯なことをやると後で笑われる。やりすぎだと思ったらすぐに止める。殺し合いじゃないからな。俺とか大山が目を覚まさないってことも有り得るし」と安藤は口元をやや曲げて説明した。一番目は、大山と安藤だった。