ひとりが肩に下げた無線機からノイズを漏らし白樺の脇に茂った笹を分けてから近づくのをふたりが窪みの中央で出迎えるように待った。
昨夜から早朝にかけて雪が降りあたりは薄く白い粉が敷かれていたが歩けば黒い地が簡単にあらわれた。 » Read the rest of this entry «
骸の窪み
January 20th, 2012 § Comments Off § permalink
あんじ
June 10th, 2011 § Comments Off § permalink
土間のたたきの縁に座って椀を持つ男は、地べたに唾をひとつ吐いて残りの蕎麦をかき込み、つゆが今日は薄いな。湯気の中の主に声を投げてから、狭い囲炉裏のある居間の鴨居に吊るされた祭羽織をみあげて、あんた今年は立つ番かい。独り言のように呟いた。
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メロン
June 5th, 2011 § Comments Off § permalink
オレは今後のために働くのが仕事だが、お前たちは、今を幸せに生きるのが仕事なんだよって、お父さんがよく言ってたわ。
ふたりで並んで洗った食器を拭きながら、母親の綾子は娘にいうでもなく手元を見つめたまま呟いた。
苦しんだのかしら。お父さん。
裕子も手元から顔を動かさずに、いつもと変わらない口調で母親に尋ねる。
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弟
May 12th, 2011 § Comments Off § permalink
「電話でかあちゃんに家を出ろっていわれてさ」
小学生の時だぜと他人事のように眉を曲げて川本は両手の中の酒を暖めるように口から遠ざけたまま唐突に話はじめた。
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炎
May 7th, 2011 § Comments Off § permalink
「最近やたら眠気が早々と落ちる」
独り言のように呟いて風呂に入ると立ち上がった川本はそのまま戻ってこない。山岡は、それを気にするでもなくこの時ばかりと時間をかけて削り尖らせた枝に肉の塊を差し込み、炙って焼き上がったところへチーズをのせ坂上に渡してから、手の甲に垂れた汁を妙に赤い舌で舐めとりグラスを呷った。
炎の中で枝が小さくはじけた後、昼間は聴こえることのない、ここからは離れているはずのせせらぎの音が冷気を纏い落葉を震わせ弱く地面を這って来る。坂上は受け取った枝付き肉を持ったまま襟を立てた。十五年か。
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