空相験
選び残ったフラットな画像を正面から眺め、斜めにして眺め、このどうしようもない薄っぺらの平面を指先でひらひらさせ、自ら座り込んでいる狭いオフィスをぐるぐると首を回してゆっくり見回し、実空間の体感というものは、どうしようもないなと思っていた。 3DCGの設計図というこれも平面の概略観念の中では、記号的な思考しか追随生成しない。そこには、結露のグラスに残る指紋とか、壁の向こうから微かに響くファクトリーの […]
寧捧傾
ギブアンドテイクという合理的な交換の響きには、相変わらず乾いた感触がある。昨今の所有の物欲を刺激する製品開発と販売にも、即効的な怒濤のゴリ押し感が溢れ、地デジ対応の液晶モニター購入に駆けつける人々の顔付には、仕組みが変わるから仕方がないという斜線をひいた諦めよりも、溺れる者が舟にしがみつく必死さが現れる。同じような表情は製品の差別化をこれも死にもの狂いで休むこともせずに奔走する開発者にも宿るのでは […]
百齢景
1914年生まれだから今年で97歳になられる織田広喜氏のアトリエに撮影の仕事で伺い、百年の形というものは、都市下ではなかなかお目にかからなくなったが、ひとつの人間にこうして明快に現れると今更に驚きつつ、仕事ではあったが、その億を超える形のひとつをじっくりと眺めさせていただいた。 画業制作を続けているというアトリエの凄まじさと対照的に、ご本人は訪れた人間を気遣う繊細を表情に隠さず、けれども時々、いか […]
促景離
教条的でないサジェストとは、原理的には放り投げた球は手から離れる。球を追いかけて拾うようなその責任回収というものは、むしろ、コレクトサジェッションの一例となり果ててまさに競合を煽り立て「教条」と化ける可能性もあり、それこそ無駄なので、キャッチャーミットからこぼれるか暴投も覚悟の、そこそこの豪速球か、あるいは首を傾げられる変化球であるべきだと思考を重ねるけれども、肩を壊した故障の多い投手としては、で […]
崩息愛
身体のいたる場所に転移し、二ヶ月前にはそれでも元気そうな表情だった叔父を雪の降る中見舞うと、ベッドの中から、「お前髭伸ばし放題だな」と、相変わらずのくだけた調子の声をかけられ一度は安心してみたものの、「みっともない格好になってしまった」とぼやいて叔母の肩にもたれ手洗いに立つ叔父の身体を抱き上げて手伝うと、頑丈な胸は厚く重かった。見た目ほど痩せてはいないと、自分に言い聞かせていた。 叔母の介護や病院 […]
光色景
丁度日曜日がオープニングですと池田からおしえてもらい、じゃあ連れてってと夫妻の車にて中野の「アートミュージアム・まど」で4月まで開催される東城信之介展へ行くと、場所(地理的)の問題があるけれども、結構なボリュームの展示にてがんばっていた。本人も元気そうでなにより。 これまでの薄汚れた感じが刷新されポップで明るい作品をみて、実は彼をリストアップしてある、2012年以降のこちらの企画に参加してみないか […]
豆魚脳
さしあたり時間もないので気づけば凹んだ腹に詰め込む工夫が失せて味のあるようなないようなおなじものばかりをそそくさと繰り返していると、陽気にも誘われた焼魚と豆が、瞳孔が広がるような旨さとなって感じられたので、これも繰り返すと、魚と豆の効能ともいえるのではないかと、身体の上向いた調子に、良い意味で首を傾げている。目玉の疲労によいから生ブルーベリーを、珈琲のかわりに口に入れていると、これも効果がある。け […]
喋聞識
数字の頓着の終わりがみえたので、抑圧が解け、午後もまだ明るい時分から酒と肴を買いに出かけ、わざわざ生臭い柳葉魚やら栄螺と、枝豆と揚げ豆腐と日本酒を仕入れて、こちらにしては長い事、堪えていた落語の録画の、橘家圓蔵「寝床」と、桂ざこば「肝つぶし」を、声を出して笑いながら酒を飲む。 話芸とタイトルのつけられた、とんでもない放映時間の録画だが、客の笑いに耳を澄ますと、そこにこちらと同調する姿のみえない受け […]
気温場
勿論それなりの理由で数字を淡々と整理する、仕方のない不毛な時間を過ごしながら、それでも検証のひとつになるかもしれないと、自身のこれまでの併置音響を聴き続けていると、その拙い文脈からいくつかの認識の磨き出しがそれでもあった。 サンプリングとはつまりそこへフィジカルな採集本能が繋がり、獲物を探す遺伝子の記憶と同調しているということ。それを箱庭に並べても仕方のないことで、採った獲物は腹に収め養分を吸収し […]
明暗淵
木炭で素描をしていた頃、中間のトーン(調子)が苦手だった。未熟な青臭い瞳にとってはくっきりとしたコントラストは気持ちがよかったし、木炭の粒子をデリケートに繰り返しのせてはけずり定着させる焦るような手元ではイメージの実現(というよりビジョンコンバート)はなかなか簡単ではなかった。同じ制作の時間の中で、清廉清明な画面を仕上げる友人を畏怖の眼差しで眺めたものだ。淡い明暗の判然としない霧の中の情景のような […]
諦翻楽
ヒュージバケットの脚本屋に成り下がったものとばかり思っていた David Benioff (1070~) は、それでも、Marc Forster (1069~) とタッグを組んでいるからまあいいかなどと、小説家としての新作を期待することをやめていたが、新刊を偶然書店で捲ったとゲンタから聞いてびっくりアマクリ。どうやら短編集ではなく長編らしいので期待大。2008年発刊全米で30万部。 Tom Rob […]