薫檜読
樹脂の蓋のどうしようもなさに辟易し廃棄と決め檜の蓋板にして書物片手に試浴すると予想を大きく越えた噎せるほどの香りに仰天し瞼閉じ捲物を閉じ投げて鼻腔から脳天にあるいは内蔵へ渡る樹木の精に身を任せて弛緩する。
窓父車
当時の医療技術のせいか深く刻まれてた、時には自慢していた若いころの腸閉塞手術痕を避けず、真っ直ぐ同じ箇所を縦に切り開かれた腹の傷を気にして、促す看護士や家族の言葉を、父親はまだ嫌だと振り払い、風呂は勿論シャワーも浴びずに、時々妻と娘の手を使い蒸したタオルで身体を拭かせるだけだったが、流石にいい加減にシャワーくらい浴びろとこちらも朝から詰め寄り、休日の担当の看護士の方もかなり強い口調で促すというより […]
躯術向
三人の健やかな若者が一時間もかけずにすっかり荷を運び出し空になったオフィスを後にして夕方7時の列車に乗り、迎えの車の中で妹から、本日近親者同席で担当外科医から示された父親の手術説明詳細を聞く。
腰水腕
回線工事の日であったので、父親の検査には母親と妹が付き添って、遠隔転移を調べる胃の内視鏡検査を行った。胃は問題がない。8日の内科から外科への引き継ぎと手術説明の後、10日に大腸検査という流れになった。幾度か電話で確認する。栄養を摂って手術に備えるべしと諭されたという。
会懐顔
イケダがその時は既に東京に居たシミズが遊びに来た際に会ったことがあると云っていたので、それでも15年ほどになるか。シミズと彼の嫁と子がオサメのアンデルセンに宿泊したので、居酒屋きらびにてヤマモト、アオキ(イケダワイフ)らと合流し、最近の疲れを吹っ飛ばすほど呑み上げる。フランス語であなたという意味の名前の4歳の息子はたしか蒼鷲といっていたか。青鷲か。小型シミズはやんちゃでなにより。声が実に可愛らしい […]
草匂雲
食欲が快復した父親は一時退院の時と比較して若干頬にも肉がついたようで、それを指摘するとへへと笑みをこぼした。早朝から書類残務に付き合ってもらってから送り届け、そのまま書留を受け取りに信濃町の柏原集配所まで車を走らせる。牟礼駅から国道を走ったので、寄り道をせずに周回路を選んで黒姫の裾野を真直ぐ走り坂中を越えて市街に戻る。数字をみると40キロに満たない距離が、新たなフットワークの基本的なテリトリーなの […]