食欲が快復した父親は一時退院の時と比較して若干頬にも肉がついたようで、それを指摘するとへへと笑みをこぼした。早朝から書類残務に付き合ってもらってから送り届け、そのまま書留を受け取りに信濃町の柏原集配所まで車を走らせる。牟礼駅から国道を走ったので、寄り道をせずに周回路を選んで黒姫の裾野を真直ぐ走り坂中を越えて市街に戻る。数字をみると40キロに満たない距離が、新たなフットワークの基本的なテリトリーなのだと苦もなく感じられ、途中、幾度も走ったこの道の同じような季節の香りが懐かしい上質な料理を久しぶりに食すような印象で窓から眉間に差し込み、つい昨日の朝まで放心しつつ片付けに明け暮れた湿度の高い埠頭の一室が夢の中の出来事のように儚く感じるのだった。

昼前に近所の方から焼きたてのパンをいただいたので、饂飩を茹でようとしていた母親もパンでいいわと云うので、新鮮なトマトをふたつ、玉葱と蒜で炒めたシンプルなトマトソースをこしらえる。洋風だな。オレは和風だが。とボヤく父親も旨そうに残さず食べ、母親も自分の手でない食事だからか美味しいと平らげ、一斤を三人で残さず腹に入れた。
二日続けて場所を変えて朝まで片付けなどしていたせいか、昼過ぎにどっと睡くなりカウチで二時間ほど午睡すると、どこかの展示会場で展示を片付ける時間に間に合わない何度も夢にみた覚えのある中にいて、以前は高速で車を走らせていたが今度は迷路のような旅館の階段の脇の部屋に、会場への近道があるという確信に促され狭い障子の隙間に身を差し入れたりする奇妙な展開を、いかにも昼寝の緩い頭で呑気に辿っていた。

Incendiary (2008) / Sharon Maguire (1960~)
40 (2009) / Emre Sahin
Colin (2008) / Marc Price

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