二ヶ月が過ぎ、骨だけで動く躯となった父親が家に戻る途中の車の中で、娑婆はいいなと呟いた。
戸隠の叔母の家から軽トラを借りて実家の居間にたてかけてあった最後の荷であるディラッドスクリーンガラス4枚を荷台に載せ、父親の退院が一週間早まったので、部屋のリニューアル工事が間に合わなかった為、急遽日本間に二階のベッドを誂える必要があり、なんとか自力でセミダブルを運び降ろし、必要の無くなったシングルマットも荷台に加えて飯綱に戻って降ろし、軽トラを返してから病院で経緯を伝えた。前の日には頼まれて叔父の家まで40キロの米を運びトウモロコシなど頂戴していた。
病院から母親を連れ戻してから花蔵とFLAT FILEへ回り、晩秋の企画の打ち合わせを行うと、FLAT FILEのモリヤ君が、唐突に飯綱に物件をみつけましたと云うので驚き、月曜日の現地下見に付き添うことを約束する。花蔵には月曜日の夕方にスケール確認と2Fの片付け調査に伺う約束をする。
週の頭から仕事に感け続けたが病院へ行く時間が、気象の変化を知る時間となったせいか疲れはない。急ぎの仕事を片付けてから週末の深夜にようやく届いて都合三つの壁面使用となった書棚へ書籍を配置したが、やはりまだ書棚が足りない。だが、床に残ったものを眺めてあとひとつでなんとかなるとひとりごちた。2400x5300mmの壁が消費されたがまだ使える壁面はある。湯槽の中、そろそろ2Fの寝室を考えようかと家具カタログをめくる。
早朝の病院には妹夫婦も来てくれた。9時すぎには父親を車に乗せて退院させ、俺が選んでいいかと娘地味た趣味を隠さない母親を横にして、翌週行われる改装の床材、壁紙、カーテン、レース、灯りなどの見本を捲り、明るいシンプルなものを一通りセレクトしてから飯綱に戻る。夕方まで書棚の整理を続けていると、霊仙寺湖で遊んで来たというヤマモト一家が訪れ、リコちゃんが焚き火をしたいのというので、寒くなってきたけれども、お父さんとふたりで薪を集めて火をつけ芋を焼く。嫁さんの日々の家事から今日は解放してあげようと、再び野菜カレーをこしらえて皆で簡単な夕飯を摂ってから、シノちゃんリコちゃんがサカナクションの新譜に合わせて踊るのを若い両親と、途中で呼んだオサメと一緒に拍手をして眺める。お父さんは娘たちに上手な歌を聴かせた。皆が帰ってからいい加減に新しい季節の子供も悦ぶ夕食メニューを考えなければとブラウザで調べる。
書棚を片付けながら聴いていたサカナクションの新譜奇数番目の曲がよろしいと感心しつつ、この時代、顕著に思想牽引する表象は、音響テクノロジーと並行成熟してきた音楽かと、80年代を思想牽引した展覧会カタログを捲り、菅さんのまだ若さの残る口調のような記述を座り込んで辿っていた。
朝6時にスマートフォンを忘れたヤマモトが取りに来て仕事に行った。雨なので走れない。
待ち合わせの時刻前にアラームをセットしてカウチに横になったら20分寝過ごした。モリヤ君に詫びの電話をする。物件的には無問題のようで、あとは価格交渉とのこと。是非取得がんばれ。雨がやんだので昼過ぎにでもバイクで見にいこか。