身体のいたる場所に転移し、二ヶ月前にはそれでも元気そうな表情だった叔父を雪の降る中見舞うと、ベッドの中から、「お前髭伸ばし放題だな」と、相変わらずのくだけた調子の声をかけられ一度は安心してみたものの、「みっともない格好になってしまった」とぼやいて叔母の肩にもたれ手洗いに立つ叔父の身体を抱き上げて手伝うと、頑丈な胸は厚く重かった。見た目ほど痩せてはいないと、自分に言い聞かせていた。
叔母の介護や病院を変えた顛末と、「オレは帰るぞ」と荷物をまとめ深夜ナースステーションに怒鳴り込んだ話を聞きながら、支える側の苦労も伝わり、だが長い時間連れ添った妻の気丈な決して壊れないやさしさのようなものに触れ、叔父は幸せ者だと、黙っていつまでも話を聞くと決め茶を頂いた。
相変わらず不安定な気象はつづき、なんだ暖かいと思った翌日に横殴りの雪原を前にして、立ち尽くすような気持ちを残しながら、数枚シャッターを押した。
またくるからというと、「お前はこんな病気になるなよ」と、即答できない声をかけられたことが、頭の中で繰り返された。
世界全体が暮れて行くということだが、それを道理と弁えているわけではない。弁えられる筈もない。
山を下る坂道から遠く市街地を眺める場所で、春の明るい日差しの下、幾度でも見舞いができればいいと思った。今度はフルーツをもっていくよ。