1914年生まれだから今年で97歳になられる織田広喜氏のアトリエに撮影の仕事で伺い、百年の形というものは、都市下ではなかなかお目にかからなくなったが、ひとつの人間にこうして明快に現れると今更に驚きつつ、仕事ではあったが、その億を超える形のひとつをじっくりと眺めさせていただいた。
画業制作を続けているというアトリエの凄まじさと対照的に、ご本人は訪れた人間を気遣う繊細を表情に隠さず、けれども時々、いかにも画家らしい逞しいような獰猛で直線的壮健な眼差しが目許に宿るのが印象的だった。丁度、3年前の、この撮影と同じ日に亡くなった伯父とほぼ同世代ということに、個人的に小さくあっと声をだしていた。
祖師谷の閑静な住宅地の中に自宅兼アトリエがあり、1階と2階にそれぞれ制作アトリエはあったが、お世話をしているお手伝いの方が、2階へはいかないほうがよいと一度は訪問客を止めた。
気づけば、いつのまにかカメラレンズのフォーカスグリップが、鮮明な緑色の油絵の具で染まり、指先をみるとどこでついたのか、まだ乾いていない絵の具が手の甲にも並んでいる。
サムホールから中型の累々と並び重ねられたカンバスをよくみると、新しい絵の具が重ねられ、一体それぞれはいつの制作であるのか、まるで時間を手前へ戻し送り返すような画家の制作が延々と続いている体内を彷徨っている感覚を抱いた。