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親和性について

親和性について

 褐色に穢れた風のせせらぎが幾筋も流れる水芭蕉遊歩道を歩きながら、ゲストにこの辺りは褐鉄鉱の鉱床があり、光景とは裏腹に浄化されていると説明していた。あの黄土色が特異な地勢のもたらす色彩だと、客が帰った静寂の中幾度も省みていた。炭の粒子が定着しやすい構造の紙に、調和的な木炭で線をひくことをおこなって、その線が加われば加わる程、木炭は紙と「親和性」を取り持つ風情を醸す馴染みの展開の、その「親和性」の濃 […]
モネの崛起

モネの崛起

 百年前に顕われた視覚藝術の事象の中でモネに注視した時間を過ごし、秋に予定している平面を中心とした個展への準備の中で、「未完」「目的を廃棄」「行き当たりばったりで破れかぶれ」であるしかないと弁えた創作をぐずぐずと続けているが、そんな手際の悪い視野に、ほうと思ってもみなかった得心が小さく生まれて重なり、こんな人生なのだなあと自らをあらためて知る。  およそ個人が行なう試みとしてモネは成熟の晩年におい […]
同田貫

同田貫

 ドット(点)を軸にした思考が、チーズ構造の分解として秋から冬にこちらを捉えた穿孔を経て、寒中唐突に裏返ってそこからやや離れた距離にて促され、多面体展開図での考察へ路を延ばして鉛筆で散らかし、6~7の角を持つ多角形(図)の内部性(形象)と外部性(輪郭線の延長)によって、平面に内在するホログラフィックな素質を刺激する効果がありそうだと、初夏のステージまでは立体構造へ立ち戻るのを止め、図での展開に執着 […]
加筆と律

加筆と律

 2016年から一年後までと同様に、2017年に取り組みはじめたタブローの加筆を遅々と続け、当初はセラへのオマージュとしての透視図法から、中途世相を吸収しゲルニカを経由して、到頭百年前の国吉の作品集を幾つも広げ、こちらの二十歳そこそこだった憧れにも遡行して、全て加えるような奔放を許しつつ、現在の折衝としての可能性を探るような手付きとなっていった。  平面(タブロー)制作を再開して未だ大小十点に充た […]
一期積層「同田貫」

一期積層「同田貫」

 重ねる度の節度があり、その節操は次の重なりを呼び込みながら、重層的に太くなるような律を生む。勿論振り返るように戻って抑制の幅を整理し直すことも可能だが、雨降りの水滴を想って止める。  同田貫をこの層におもう。 ー同田貫(どうだぬき)は九州肥後国菊池の同田貫(地名)を本拠地に、永禄頃から活躍した肥後刀工の一群。延寿派の末流とされる。銘を九州肥後同田貫、肥後州同田貫、肥後国菊池住同田貫などと切り、ま […]
「地」「炭素」「俯瞰」ー枝脈

「地」「炭素」「俯瞰」ー枝脈

 白い季節の中巡らせた仕組みの具体化をまず率先してその行方を確かめる必要があり、奔放な緩さも許して進めると、自らに跳ね返る数々がある。記憶の陽炎とも云える断片的な痕跡が、各々傾向に別れた物語を形作るようであり、今更に固有な自己を言及しているような表象となって顕われる。近視眼的な掌のスケールでの意識の投影は、併行して行っている別スケール、別次元展開にも影響を与え、尺度の強弱の混在へ向うことになる。 […]
薪割組と炭素石

薪割組と炭素石

 四年前の秋に制作した、薪を割って再構成するインスタレーションオブジェの創作の手元を、柔らかい筆にたぐり寄せ、同じことだなとひとりごちる。いずれも繰り返されることで達する円熟、見極めの足りなさがあって、だからといって伸う伸うとそれを許す暮らしが無いと言えばそれまでだ。ただ時間を置いて、同じ取り組みをする時、幾度も繰り返さなかったにも関わらず、ふっと達者な目付きは生まれる。(生まれてしまう)  幸せ […]
炭素石

炭素石

 目の前の都度の折衝としての想像力が、端的に顕われる粒子の扱いを再考する拠所はふたつみっつある。反復による視座の洗浄(想像力投入の清潔な位置の獲得)の実感はその度にあり、局面(転化)への対応を急がずに、繰り返されることで得ていった深化構造(現状の不足と飛躍)を風呂の中まで持ち込んで、新聞の記事にも意識の辿りが移らなかった。  このところ迂回的な好奇の触手を、自らの出自気質の世知辛さと諦める世代を超 […]
差異予感

差異予感

 携わっている倉庫ギャラリーの新しい取り組みである*「Button Badges Artists Works」の展開を自らどのような具体性があるのか検証していくと、なるほどカンバッジという安価で拙いフォーマット(大きさ・体裁)に、記号的且つ画一的に現れるわけではないことに気づく。  匿名的責任所在不明の同形量産のそれではなく、一点限定の「オリジナル作品」として、作家名を帯びたオブジェクトとしてその […]
事象折衝

事象折衝

 目的(完成)を放棄する手法として、併置論を置き、三種類の図的な構造を加算することで生成する事象と交渉を試みる。事後的な内省を含みながら交渉の不足に対して持続的な関与を屡々時間を挟んで行う。この視覚のネゴシエーションには経験的な技法が呼び出されるが、言語的な意味での文法がこの折衝に横たわっているわけではないので、初動から半ばまでは、言語的文法を見出すような作業になる。とはいっても文法を確立すること […]
描譚ノ詩形

描譚ノ詩形

ダイヤモンドブラックを迎える傾き Tilt to welcome diamond black / fear of the unsophisticated shape 2017 森と山稜の速度を眺める場所 The site to look at the speed of the forest and the mountain ridge / fear of the unsophisticated s […]
天狗宇宙舟四十六艘

天狗宇宙舟四十六艘

 十八ヶ月前に神楽を浮かべて下書きをしていた「天狗の宇宙旅行」というイメージは、季節が移り変わる度に池の底から浮かんでくる泡ぶくのように繰り返されていた。丸谷才一と山崎正和の「日本史を読む」という対談冒頭で語られる、斎藤茂吉の万葉集解釈と大岡信の解釈の違いの指摘、丸谷自身が首を傾げた記憶から紐解く万葉恋歌の実際の環境構造への眼差しに大きく得心するものがあり、今回準備制作しているいわば「反矩形」のア […]