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目の前の

文京区シビックホールは威圧的で、且つ高度恐怖を感じる者としては、9Fという高さの窓から垂直に真下を眺めると腰が引けるのを除けば、ユーボートオフィスの新居(制作別室)は、数ヶ月首を傾げたまま移転先を経巡った曲折の結果幸運が舞い降りたと云っていい。南側の窓から後楽園のジェットコースターが見え、気の知れない人間を乗せたコースターの動きに、まさか乗ってみようかなどとオソロシイ感情移入せずに、卓上のスペース […]

観念

ー男はかろうじて女の子を支えて、この災いの、自分がすべて元なのだから、せめてこの子を救わなくてはならない、この子が生きながらえば、人も助かると、何事かを待つうちに、向かいから人を分けて白い女が現れ、立ち停まって手招きするので、最後の力を絞って女の前に寄り、子を渡し、力尽きて女の足もとに崩れると、女は片手に子を抱えなおし、もう片手を伸ばして男の首すじに触れた。いかにも涼しい手だった。これで癒えて、死 […]

EF50mm F1.8 II

一昨日に喰ったものを憶い出せない。暫く唸った。 嫌な揺れ。ゆっくりと部屋が撓むような地震が今起きた。腰を伸ばしやや上を見上げる。まだ揺れている。 早朝迄、三本立ての業務の順序を入れ替えながら芝生の雑草を抜くような反復、絵を描くような無邪気、卵から怖々覗いているような手つきで時間と折り合いをつけた。昨夜の酒も明るくなる随分前に抜けた。背を丸めて俯くように指先から糸を伸ばしていた。 窓を開けるとからっ […]

低気圧

湿度にいたるところが締め付けられるような時に再び「白暗淵」を手にして、幾分ゆっくりとのめり込むように読んでいた。折しもまたかという感じの通り魔の事件が起き、娘と連れ立って行かなくてよかったと胸を撫で下ろしながら釈然としない。こちらは列車の中で贖罪にまで行き当たり、過去と未来を捉える現在の自分の謂れを小さく悟ったような気がしたばかりのことだったが、世界をざっくり見せつけられて馬鹿みたいな認識だと、ニ […]

新潟から野尻湖

雨の予報が外れたので、折角だから撮影を兼ねて両親を連れ出して、車を走らせ中野インターから高速に乗り、新井のハイウエイオアシスまでドライブ。丁度昼時だったので、ラーメン屋に入り食事を摂り、買い物をしていると、戸隠の叔父に偶然出会う。泊まりがけの旅行の最終日に買い物に立ち寄ったという。高速は信濃町から妙高まで片側交互通行の工事中だったので、高田インターで降りて、18号バイパスを長野方面へ戻り、途中野尻 […]

森川

木曜から週末にかけて雨が降る。水曜日も午後から下り坂という予報を聞いて、今日しか撮影できないと、午前中から先週ロケハンした場所を巡る。数日しか経過していないが、アカシアの花は膨れ、緑色も濃くなった。昼は蕎麦でもと思ったが、そんな余裕はなく、今回新しく見いだした場所で粘る。週の真ん中の平日なのに、奥深い山奥に車が置かれてあり、釣り人が入り込んでいるようで、時折熊よけの鈴の音が聞こえた。 午後は千曲川 […]

新緑の森は海の中のようで

小雨の中、車を走らせて山に入ると、突き刺すような新緑のグリーンが溢れ、標高によってはその勢いに差異があるものの、車を降りると怖くなるほどだった。 平日の雨上がりは、色彩が膨張して、大気が染まり、こちらの肉体の隙間から入り込むので、緑色の脳みそを浮かべた。 あちこちを巡ってこの日はロケハンのみで終え、晴れた休日には早朝からと考えていたが寝坊して、昼過ぎに目星をつけた場所を巡り直して撮影。このままこの […]

4/1209

「ロベルト・ムージル」の後、「半島」を捲ると嘘っぽいので途中でやめる。説明的な嘘に付き合う時間は無し。 アマゾンのオススメDVD1200本を辿るが、4本しか残らない。 9500が届き、巨大なので、急遽オフィスを整理。4種類の印刷用の紙を試験的に使ってみようと、 ファインアートペーパー・フォトラグ A3ノビ / ¥6,510 キヤノン写真用紙・光沢 ゴールド A3ノビ / ¥2,680 ファインアー […]

意識の整理

京都から日帰りの仕事帰りのushiyamaより電話があり、週末の夜10時過ぎに合流して、深夜営業を終了し、ラストオーダーが11:00となった中華「安」で紹興酒を呑み、残業手当の出ないgarioも合流し、タクシーで月島の笑笑へ出かけ呑み上げる。こちらの最近の煮詰まり(意識の整理)を話しながら、戦略を練る。3人ともかなり呑んでからオフィスに戻り気を失い気づくと早朝キチンの下で倒れていた。 ushiya […]

山行き(カフェにて)

ー飲めますと稚拙な文字で書かれた木片が傾いて置かれた小さな流れに目が止まってからやや遅れて水の音が聴こえた。 音響が時間軸に沿って展開するかのように遠く鳥獣の鳴き声や背後に深く切れこんだ谷底をわたる風のうねりも加わった。 知らぬうちに左手に枝を持って脇の笹藪を撫でながら歩みを進めていた。拾いあげた記憶もなかった。 山を行けば何も考えずに肉体の疲労を甘く抱くだけで済む筈が、ひたすらな歩みが観念の殻を […]

竹の林(バスでのメモ)

朽ちた屍体は、兎のようでもあり鼬のようでもあった。 (深夜車で轢いた小さな小動物を拾い上げた同乗者は、死んでいますねと首の垂れた小さな身体を片手で持ち上げた。) 森から下りて竹の林に入ると、足元の白い体毛のなかに小さなキノコを群生させ、骨の一部は洗われて、季節をひとつ前に戻した雪の中で息が絶えたと思わせた。 林の上空は風が吹き渡り見上げる枝はあらぶっていたが、 林の底は、この小さな骸のさらなる腐敗 […]

石の上(地下鉄でのメモ)

君は石の上に立っている。 やや左足に身体を任せているのは、利き足が右だからだ。 踵に力が澄みきって、姿勢の躊躇いもなければ狼狽えもない。君はまだ弱く若い。 濡れた石の上に長い間立ち、足跡はうっすら凹んでいるから、 君がそこに存在したことの証となって、その窪みにこうして雨の後、水滴を集め、 垂直に上昇する身体を持った。 新緑の色彩の気配は背後にある。 いつになく広々とした空間が、君の足元から向こうへ […]