裂枝空
娘が一昨日も昨日もカレーだったというので、こしらえようと思っていたカレーライスをやめて、肉野菜炒めにした。夜行バスで早朝から終日滑って疲れた娘を寝床にやってから、どうしようか数日悩みつづけていた作業を行い、行ったからこそ判ることがある。 ひとつのささやかな現れが押し広げる思いがけない想像力の地平というものがあり、目の前に顕われる前には全く想定できなかったことが、殊の外面白い。目玉に事象が映り込 […]
地誇時間
石川県の人口が約115万、金沢市の人口は、100万人の兵士を1年間食べさせていた加賀百万石の文脈を経て、現在約46万。戦争天災などの被災破壊を受けていない市街地は、勿論近代化されながらも、過去がその形象に焼きつけられている。北陸新幹線の開通で、市街には路面電車の開発の声があがっている。庇護の元育まれた伝統工芸の地にあって、盛んに先端の現代美術が企画されているその姿勢に学ぶものが多い。単に歴史に縋 […]
数形往間
春の毒に充ちたものを喰って腹の中を吐き出して洗浄する獣たちを浮かべて、たしかに食欲の季節ではない。余白みたいな大気にあれこれ滲み出るから嗅覚が敏感になるように、視覚も尖ってくればよいが、知覚はひとつが突出すると他が萎えるのだろうか。
詩人齎睡眠
ー 風に乗っているというのでもなかった。はじめは交叉点の上をいっきに飛び抜けるいきおいを持っていた。交叉点では南の風が周囲のビルに乱され、瞬間毎に方向を変えていた。直進の信号が赤に変る直前の外側の車線に移り、西へ向う車の間にまぎれこんだ。ここからはしばらくその姿が見えない。強い排気に煽られたかどうかして、突然高度を取り戻した。デパートの配送のパネルトラックのスチールの角に触れそうになり(実際接触 […]
齢数近寄
一旦組み立て作業を片付けようとしていたが、積もったものを数えると年齢のようなものをあてはめる唐突な気持ちが浮かび(そもそも浮かんだのも、作業の手触りの残滓、余韻が不足不十分を訴えたのかもしれないし、木炭で行う作業になかなか入り込めない隙も生まれていた)、終わりのみえない書類整理の脇に座り込み、再び闇雲を取り戻すかの加減で自分の年齢の数だけと根拠のない拘りに取憑いてはじめていた。
百詩千線
ー 「燃えるモーツァルトの手」という一行は、いきなりはじまってしまった音楽のつよさをもっている。「燃えるモーツァルトの手」とはなんのことだろうか。と思う間もなく、それを「みるな」という声が発せられる。しかし、この禁止がつよいものであるとき、詩を読む側はかえって、「燃えるモーツァルトの手」というありえないようなイメージがいやおうなく見えてくる。また、この一行の中の三つのM音が作品のリズムと旋律をつく […]
時捧置未
branch hutch MBMへの木炭の定着のレヴェルをあれこれ試すと、やはり粒子の状態という見極めがつく。口実(プレテクスト)的過程の併置論は、だから詰まるところ、超近視眼的な状態を示すことになる。