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「燃えるモーツァルトの手」という一行は、いきなりはじまってしまった音楽のつよさをもっている。「燃えるモーツァルトの手」とはなんのことだろうか。と思う間もなく、それを「みるな」という声が発せられる。しかし、この禁止がつよいものであるとき、詩を読む側はかえって、「燃えるモーツァルトの手」というありえないようなイメージがいやおうなく見えてくる。また、この一行の中の三つのM音が作品のリズムと旋律をつくりはじめる。次の行の「千の縁の耳の千の縁の耳」は、半ばは、苔むした耳をもってガンジス河に浮かぶ死者たちのイメージであろうが、その行の六つに増殖したM音によって、あとの半ばは、そこ、想像のガンジス河に立ち昇る呪文のような音楽性をもちはじめている。ー音響的宇宙へ(詩・吉増剛造) 平出隆 / 詩のレッスン 現代詩100人・21世紀への言葉の冒険 より抜粋引用

 平出隆の概説がポール・ド・マンと符合する。

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