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薪割組と炭素石

薪割組と炭素石

 四年前の秋に制作した、薪を割って再構成するインスタレーションオブジェの創作の手元を、柔らかい筆にたぐり寄せ、同じことだなとひとりごちる。いずれも繰り返されることで達する円熟、見極めの足りなさがあって、だからといって伸う伸うとそれを許す暮らしが無いと言えばそれまでだ。ただ時間を置いて、同じ取り組みをする時、幾度も繰り返さなかったにも関わらず、ふっと達者な目付きは生まれる。(生まれてしまう)  幸せ […]
炭素石

炭素石

 目の前の都度の折衝としての想像力が、端的に顕われる粒子の扱いを再考する拠所はふたつみっつある。反復による視座の洗浄(想像力投入の清潔な位置の獲得)の実感はその度にあり、局面(転化)への対応を急がずに、繰り返されることで得ていった深化構造(現状の不足と飛躍)を風呂の中まで持ち込んで、新聞の記事にも意識の辿りが移らなかった。  このところ迂回的な好奇の触手を、自らの出自気質の世知辛さと諦める世代を超 […]
差異予感

差異予感

 携わっている倉庫ギャラリーの新しい取り組みである*「Button Badges Artists Works」の展開を自らどのような具体性があるのか検証していくと、なるほどカンバッジという安価で拙いフォーマット(大きさ・体裁)に、記号的且つ画一的に現れるわけではないことに気づく。  匿名的責任所在不明の同形量産のそれではなく、一点限定の「オリジナル作品」として、作家名を帯びたオブジェクトとしてその […]
帰還ノ季節

帰還ノ季節

 気持ちとは裏腹にゼロから立ち上げるという思春期ではないので、自身の排泄責任、歩みの傾向に従って、泥にまみれた眺めがこちらそのものだ。この汚れもこの春はどこか爽やかな気もするのだからおかしいものだ。  半年の間、率直なベクトルに沿って、あるいは地に足を張る為とはいえ、まるで幽体離脱していたような日々の、浮遊の、離脱の、憑依もできない根無し草の態での精神生活から、魂を軀に引き戻し、自らの血の巡りへ魂 […]
事象折衝

事象折衝

 目的(完成)を放棄する手法として、併置論を置き、三種類の図的な構造を加算することで生成する事象と交渉を試みる。事後的な内省を含みながら交渉の不足に対して持続的な関与を屡々時間を挟んで行う。この視覚のネゴシエーションには経験的な技法が呼び出されるが、言語的な意味での文法がこの折衝に横たわっているわけではないので、初動から半ばまでは、言語的文法を見出すような作業になる。とはいっても文法を確立すること […]
描譚ノ詩形

描譚ノ詩形

ダイヤモンドブラックを迎える傾き Tilt to welcome diamond black / fear of the unsophisticated shape 2017 森と山稜の速度を眺める場所 The site to look at the speed of the forest and the mountain ridge / fear of the unsophisticated s […]
孫瞳ノ芯

孫瞳ノ芯

 娘夫婦が孫を連れて遊びに来た。生後4ヶ月の赤ん坊は7kgになっていて重い。若い夫婦の幸せの絶頂期をお裾分けしていただく。
標高気温

標高気温

 リトルフォレストを再び観て、流石に原作者が気になり、五十嵐大介(1969~)を調べて捲る時間があった。画家を目指した青年が漫画家となって成功した図を俯瞰すると、生真面目な独考の姿が長々と横たわった「オタク」的なこの時代の「雄」の真摯な形のひとつと見受けられる。同時に観ていた「途方に暮れる」状況をそのまま寓話化させたミッドナイトスペシャル(Jeff Nichols 1978~)の、唐突な事実に照応 […]

山椒季譚

 京佃煮わらじやのちりめん山椒をネットで注文し、真冬の白米に乗せては食しあっという間に平らげていた。尖った味覚を舌に残しつつ、庭の幼木に縋った揚羽の羽根文様を浮かべ、あるいはまた、つし王(厨子王)に復讐された大夫父子のくだりを捲り直してみたりしていた。  冷蔵庫に生ものを買い置きする質(たち)ではないので、瓶詰めの香辛料ばかりが並んでいる。スパイスを巡って文明が激烈に移ろったと思えば、胡椒にしろ醤 […]
整理整頓考

整理整頓考

 数年で使う事のできなくなるモノ(PC)を使う自らの精神の脆弱性を問うつもりで、なんとかならないかと、あれこれ時間をかけて併置し直すことを繰り返していた。所謂アップデートという「よりよくなる」概念に騙されているわけだから、アップデートしない環境保持を仮設する。4K48インチモニターを導入したが、4K(3840×2160ピクセル)で、表現される画面に出力するデバイスは限られており、出力したとしても、 […]
唯物速度図

唯物速度図

 過去、現在の自身の年齢あたりを想定したわけではないが、中年の終わりの自覚に包まれて自らの立体的な作品群の中を歩む夢を、不思議な体感をともなって幾度か数年の間隔をおいて繰り返してみていた。夢ではまるで根拠や系譜のない具体的な彫像のようなものもあり、欲望が羨望と溶け合った間違いの光景として、都度笑って過ぎていく程度だったが記憶には強く残った。
天狗宇宙舟四十六艘

天狗宇宙舟四十六艘

 十八ヶ月前に神楽を浮かべて下書きをしていた「天狗の宇宙旅行」というイメージは、季節が移り変わる度に池の底から浮かんでくる泡ぶくのように繰り返されていた。丸谷才一と山崎正和の「日本史を読む」という対談冒頭で語られる、斎藤茂吉の万葉集解釈と大岡信の解釈の違いの指摘、丸谷自身が首を傾げた記憶から紐解く万葉恋歌の実際の環境構造への眼差しに大きく得心するものがあり、今回準備制作しているいわば「反矩形」のア […]