年齢の割に日々行事や寄り合いや用事があり、それになるべく断らずに参加出席することは老化の防止に役立っていると自負する父親は、週に一度は書道を教える教室に車ででかけ、なにかにつけ外に出たがる母親も、父親をお抱え運転手と頼むので、実家にいると運転手の役割がこちらに回ってきて、この時とばかり父親は書斎兼書の制作部屋に引き蘢る。こちらは父親の車をその度に借りるよと両親のスケジュールを確認しながら動かざるを得ないので、なかなか日々の段取りが面倒だった。バイクであちこちを独りで自在に飛び回れるフットワークを手にしたので、ようやくほぼ二年越しの物件探しに本腰を入れ現地検証をはじめることができる。年が明けてからリストアップを開始していたが、なにかと忙しなくもう半年が過ぎようとしている。


土地だけ購入して建物はあとからと呑気に考えたのがはじまりだったが、昨今家付きの物件も気のせいかここ一年で増えた。最初は環境だと、まず意識の結ばれる場所を目指してとにかく闇雲に歩いたが、野尻湖畔は土地が狭く、軽井沢は価格の桁がひとつ多い。インフラの整備された利便性の高い土地はそれなりの価格がする。西宮の叔父が20年前に戸隠に建てた別荘も、一時期こちらも何度か使わせてもらったが、叔父の仕事柄と場所柄もあって、先日の葬式の時、叔父の息子と扉をあけると手入れをせずに放置したまま荒れていた。そこをどうこうする可能性も残されてはいるが、それは従兄弟である息子の仕事となるだろう。
日々必ず目を通す物件探しの成果はあって、目利きや環境の推察から検証に値するかどうかを即座に判断できるようになった。幾つかの候補地へ週末バイクを走らせて具体的な検証をはじめる。
最初から物語の構想も並行してはじめている野尻湖に、築4年のオール電化の建てられたばかりといっていい物件を湖畔にみつけたので、これを第一候補として問題がなければ決めてしまっていい。土地は326.70坪あり、建物の床面積は、75.01坪。基礎部分が車庫・倉庫になっている二階建てだが、実質的には3LDKの平屋。データより確認できないのは、土地がやや傾斜地であることで、土地の輪郭と取り巻く環境は、googl mapでは判別できない。土地柄冬期の積雪に対応する建築物とされているはずだが、この斜面という問題が気にはなる。娘たちの希望はまず犬だから、これも考慮しなければいけない。しかし冬場の現地の写真を辿り返して積雪の凄さに少々腰が引く感覚はまだある。場所的に不明なことが多い上田から随分山奥へ入った村営の別荘地に唐突に現れたようなモダンな物件もあり、同じに日に巡る場所ではないから、これは日をズラしてこの目で確かめないとわからない。山林にある281.33坪の土地に建てられた暖炉のある二階建て3LDKログハウスだが、野尻湖物件よりも価格はやや高いが、これも建てたばかりで修復の必要は当面なさそうだ。野尻湖には、土地は300.38坪あるが、12.27坪の倹しい夏小屋別荘が240万で売り出されていて、車を買う価格というのが面白いので、こちらも回ってみようかと。インフラ的に汲み取りなので候補外だが。青年には買ってしまえと薦めたい。

東京のオフィスで今後10年を過ごす不毛をさらばと放棄する。決めたのは二年前だが、就活をはじめている長女のビジョンが具体的になって独り立ちするだろう時期となったこともあり、80歳を超えた両親はまだ元気だが、ごく近い将来介護環境へ実家をリフォームすることも想定されるので、実家に仮設しているスタジオを移設統合する目的もある。東京の埠頭のオフィスで今後10年過ごす経費は、このオフィス移転別荘化と天秤にかければほぼ同額だが、それ以上の明快な差異が想像できる。行動を起こす年齢的な意気地のタイミングというのはあるかもしれない。あと数年ずれ込めば、カラダが面倒臭いとダダをこねる可能性もある。
あらゆるすべてが、よい形で結実することを祈るというより意志でゴリ押ししてでもやるのさ。