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苛烈な告白私小説の極北とされる葛西善蔵(1887-1928)から嘉村礒多(1897-1933)の作品を執拗な目で追う古井を風呂で捲りながら覚醒していく感覚が季節の明瞭さと同期して気持ちがよい。

愚図愚図と手元を捏ねくり回すことを撥ね付けてさっぱりと明晰な現実世界の広がりに心身が重なり合うような工夫をと続けているがその実現は簡単ではない。
丁度百年前を経巡っていた結句の束のようなものを古井の探索に見いだしつつ、固有から溶け出す普遍のリアルというものを今更に大いに考える。
葛西善蔵は41で肺病、嘉村礒多は36で結核性腹膜炎にて死去。大正末期は2万5千ほどの脚気罹患患者が潜在。食糧事情が悪化しチアミン不足の時代だが、多くの文学者が近代日本語を整形構築する時期でもある。一册一円の円本が現代のITごとくに売れた。