実は、ぱらぱらと種を播くときのように、問題部位から、癌細胞が周囲にまき散らされて起こる腹膜播種転移からのアルブミン低下、腹水増化により内蔵が圧迫されたのではないか。
妹とふたりで病院の、単なる数値から判断した栄養不足と記載されたものを睨んで、時間の経過を危ぶんだ。
父親は暫定10日間の入院を申し渡されて、標準の83%に落ち込んだ数値を管理された栄養食で当面様子を見るように指示されたが、息子も娘もその診療検査の方向性のどこか曖昧な機能脆弱を感じた。そもそも癌は内科医師による繊細な検査によって発覚したわけだから、今回も問題の発生理由を究明する内科検診をすべきを道理と考えたが入院病棟は手術をおこなった外科であり、方針も外科と内科との連携が行われた検査ベクトルと考えにくい。本来ならば内科にて腹水発生の根本を徹底検証するのが筋であるのではないかと、子らは素人考えだが不安を隠さず話した。
外科手術を問題なく終えたなら、退院して一ヶ月経てば恢復の兆しがある筈が、二週間後から上向きだった食が、おそらく腹水増加により内蔵圧迫され減退した。癌による腹水は末期症状であり、この対処は困難を極める。転移確認の検査に落ち度があったのかもしれない。母親にこの素人不安をそのまま話せば、また取り乱して泣き崩れるので、子供たちはまだ話していない。今回は表立って日々付き添うような容態ではないという診療方針なのだが、医師の対応如何、検査の結果次第でこれも変わる可能性がある。
さまざまな情報を眺めて憶測を重ねても、父親の躯はひとつ、今、病室に横たわっている固有でしかないので、転院も視野に入れ、理性的な判断と意見を率直に担当者に申し入れるべきと考えた。
体力の衰えとおそらく老齢の躯には堪えた筈の長時間の全身麻酔手術などによって、物忘れが酷くなり痴呆性認知症の兆しもあり、幾度も同じことを尋ねる連れ添いに母親は不安を隠さなかったが、それよりもまず恢復の二文字を抱き寄せたいのは、子供も同じ。ふたりとも年齢的にも激務の中、へこたれないよう見守るしかないが、後悔はしたくないので、できることはしたい。
新車が届き、運転をしながら、本来ならば嬉々として乗り回す気分も、ハンドルの中不安な憂鬱がこぼれるので、まだ操作マニュアルも開いていない。祈り方の知らない人間はこういう時困惑するしかない。