消化、胃酸の中和、血液中の糖のコントロールを行う、胃の裏側にあるパンクレアスの癌組織の削除手術を父親は行った。
腫瘍の癒着がみられた為、リスクが大きいとされる膵臓と肝臓を結ぶ門脈(血管)の部分削除と再生縫合も、医師の判断で行われ、その為に出血も多く輸血をして、削除4時間、再構成4時間、合計8時間の大手術となった。膵臓の全摘出ではなく、部分削除と、十二指腸摘出を行い、問題と考えられた箇所は、全て計画どおり削除したが、箇所が身体の中央の、いわば流通の要なので、転移の可能性は残っている。深い麻酔と、肺に直接酸素を送る人工呼吸装置装着時に父親の老いた歯が抜けたと麻酔医から頭を下げられたが、怒鳴るわけにもいかなかった。生きているだけでよろしいわけだから。
ICUにてまだ意識が戻らない父親の顔を家族で順番に眺めて終日の付添いを終えた。
経過がまだ心配だが、担当医から見せられた削除摘出部位と腫瘍の説明を聞きながら、任せるしかないと黙って頷いていた。仕事を終えた眼科医の義弟も駆けつけてくれ、同窓同級生の担当医になにかと事前に頭を下げてくれていたので、家族で感謝する。削除部位を思わずグロいと呟いた姪っ子は、今夜は肉は食べれないと零した。メールで直接祖父を励ました娘たちと、手術前に見舞いに来てくれた戸隠の叔母、末っ子の叔父夫婦にも報告する。とにかく第一関門無事突破。
母親と妹と姪っ子は、終日手術待合室に籠って付き添ったが、こちらは三度市街と飯綱を往復し、荷を搬送し、それぞれの家の洗濯物を何も考えずに干してから病院に戻った。大池の脇を抜ける近道を見つける。