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The Ride Journal / UK
The Ride Issue 1 PDF (26.2MB)

歓ばれると嬉しいというのは、若干嘘がある。
仕事は勿論、日常のやり取りの中の、ちょっとした仕草や言葉が、他者に向けて近づく時、怒りを買うことが多い。その理由を尋ねると、わからないからだという。こちらすらわけのわからないことを目の前に置いているのだから、それをわかりやすく説明することは嘘をつくことになる。これがなかなか了解していただけない。逆に大いによろこばれると、偶さかどこかこちらが間違っていたのではと自らを怪しむ。いずれにしろ、こちらのわからないことを、むこうはわかってしまったのかと訝しい。また時に、手抜きだからこそ、世に従ったまでのことをよろこばれることもある。そんな時はセメント工場のブルーカラーの労働と同じと考える。あるいは学生の頃のデパートの模様替えのアルバイトと同じと時給で考える。カンズメ工場でもよい。しかしまあ、わからないことには目を瞑るべきな世の中かもしれない。そのほうが楽とほとんどのヒトは言う。しかし「楽」って一体何だ?安易という概念には興味がない。

ふと、仕事がさっと上がり、仕上がったわけではないか、これ以上現時点ではどうにもならないと諦めた。気づけば朝の6時で、3時間前の虚ろな揺らぎの中で、そういえば湯槽に湯を張っていたはずだと服を脱いだ。脈絡もなく一物が勃起したので首をひねった。実家滞在中、ノックもなしにドアが開き、母親が、「あんた風呂に入りなさい。いつ入ったの」という声が脳裏の奥から大きく聞こえた。確かに風呂など入らずヒゲも剃らず、不気味な中年息子が、母親は気味が悪かったか。
湯槽の水の1/4ほどの上層部分はまだほんのりと暖かかったが、足を入れて尻を置くと下は体温よりも随分低く、水だと感じた。初秋とはいえ寒くはないが、外にでるのが憚れて、腕を伸ばして石鹸をとり、水の中で肌に石鹸を擦りはじめた。ゆっくりとな。慌てることはないが、身体をゆっくりと洗うことを教えてもらったことはない。銭湯でも皆がごしごしと、ある一定のスピードで身体を洗い、ほぼ同じスピードで風呂から出ていたなと、浅草の湯槽を憶いだした。
ゆっくりとなと呟くほどではなかったが、水から出して縁に置いた足に石鹸を回し、いっそ喰ってしまうか。腹の中まで洗いたくなった。

冷蔵庫に置いたままの日本酒を取り出し、グラスに注いでから、コンビニで桃屋の花らっきょうを買い、酒を呑み始め、11日の夜呑んだから、一週間ぶりかと、薤と酒を交互に口に注ぎ放り入れる。二日ほど寝ていないので眠るべきかもしれないが酒をのむことにしたが、花らっきょうがあっと言う間になくなってしまった。二瓶買うことなど考えてもみなかった。

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Sang Bleu / UK


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Afterall /

Individuals
1-year (3 issues): UK £16 / EU €20 / US $25 / Worldwide $35
2-years (6 issues): UK £30 / EU €35 / US $45 / Worldwide $55
Institutional Subscriptions
1-year (3 issues): UK £46 / EU €68 / US $90 / Worldwide $100
2-years (6 issues): UK £90 / EU €134 / US $175 / Worldwide $190

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Anseim Reyle (1970~) / artist based in Berlin.