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更埴インターチェンジから千曲川の土手道を選んで走ると河川敷の植生の眺めが際立った。「くわばらくわばら」の語源とも言われる千曲市桑原の善光寺西街道の面影が残り並ぶ家々のうちのひとつの立派な構えを指差して、父親はあれは待合だ。ようするに遊郭だ。と教えてくれた。一時は須坂同様に絹で潤ったらしい宿場町から県道を上り、高速が開通した時には夜景を眺めに小ドライブをした姨捨パーキングエリアを下に望む小さな展望所で車を止め、あれが田毎の月。満開のアカシアを背に盆地を眺めていた。犀川を北から降りて琅鶴湖からR19を戻っていたので、今度は南からと、聖湖から麻績村へ抜け大岡村からR19へ出る道を、成り行きに任せて走った。麻績から大岡までの道中、若い頃より山村の転勤を重ねた二親も、この辺りは来るのは初めてだと、好奇心を曝した。
長野市街盆地の西の北アルプスまでの間に幾筋かの谷があり、織り込むような山々の標高高く村々が点在し、丁寧に使い込まれた土地が開墾され、高所の田には既に水が張られている。谷を隔ててここもまた住処を定着させた人間の空間が切立つ山々の小さな窪みに張り付くように在って、垂直に繋がる迷路を辿り、気圧で耳が圧迫され、時に吸い出され、上って下って国道19号にまさに降り立つのだった。

享受する。郵便配達人から手紙を受け取るように、「はい」と頷きながらものを受け取るという態度から、睨みつけるというクリティカルな態度へシフトする意識的なスイッチは、写真などやっていれば、ビジュアルに牽引される当然の機転であるが、同じような心持ちで傍らで言語と歴史を辿り、つまり睨み辿る姿勢に慣れたと楽観して車を握るハンドル越しの流れる光景にも同じような心地を投じたつもりだったが、目眩を残したまま彷徨うような撮影ドライブから戻っては夜な夜な、古井の漱石の漢詩への探求と、平出の詩と衣良子清白への愛とも取れる睨み辿りに惹き込まれ、音読をぎりぎり堪えるように読み進めて、滾々と続く終わらないつぶやきの発音の、発声の響きのようなものに包まれては、その度に呆然とあっけにとられた。こちらの睨みなど星が幾つも足りない。

この国の写真黎明期を、自身の誕生と重ねて支えたひとりであり、渋谷の松濤美術館で観ている安井仲治(1903~)に一時傾倒した。何度か繰り返して残された画像作品を睨み辿って探っても、然し写真機というテクノロジーの堅牢な鉄塊を突き抜けるココロは、まだ私には見えない。強固な力で睨み辿っても、まだまだ〜と腹で攻められ土俵から叩き出される、突き抜けたものにはなかなかお目にかかれない。はじめは荒木よりも控えめで端正だと気に入っていた桑原甲子雄(1913~2007)も、いつ頃からか見ればみつかる評価のエッセンスともなっている小洒落た所作に目を閉じることもあった。皆が写真機で絵を描こうとすることに首を傾げた。むしろ報道の記録性に関心を奪われることが少なくなかった。そんな写真史の脆弱を嘆くような気分はどこかじめじめと肌の下に残っていた。聖湖湖畔の航空博物館の片隅に、戦前の神風号パイロットで15357kmの距離を飛行時間94時間17分56秒の飛行を行ったと記録にある飯沼正明氏(1912~1941)の、何気ないどこにでもあるようなポートレイトがあり、撮影者は不明だが、この時しばらくその前を立ち去ることができなかった。長野県南安曇郡豊科町(現・安曇野市)出身とあった。こちらの立ち尽くす屈託には日々の曲折からの気分もある。季節の影響もある。が、肖像の残された、 永井荷風が「濹東綺譚」の連載を開始し、年の暮れには日本軍が南京城を陥落、南京を占領した昭和12年に、立っていたひとりの25歳という年齢で成熟している大人の記録画像が、1937年という現代ではなかなか見えない、険しいがどこか健やかなカラッと晴れたような大気と時代を示す。

この写真画像の被写体へ睨み辿って明らかになること、新たに知る事は幾つか在るだろうが、立ち去ることをとどめたものは、おそらくそうした認識論的なこと、観念的な把握の力ではない。写真という唐突な鮮明は、才能や人間精神の複雑な構築から編み出される、あるいは突き出される睨み辿りを、あっさり蹴飛ばす力があるので頗る爽快。何も隠さずぽっかりと時空を切り開いて在る。

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Efter brylluppet (2006) / Susanne Bier (1960~) DVD
Colossal Youth / Pedro Costa(1959~) DVD

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DSi / NINTENDO
アルトコロニーの定理 / RADWIMPS / リナへ
Touch in Light / APOGEE / リナへ
FF III DS / used

娘二人との黒部立山アルペンルートバスツアーを予約。1人¥13000。7/19(日)
ほぼ2日でトラックボールマウス(Logicool TrackMan® Wheel)に慣れたが、微妙なドラックと、微細な移動は親指がまだ迷う。ブラウジングは驚くほど快適で、これまでこのドラゴンボールを使用しなかった自分を責めた。いずれ妖練自在な玉弄りの親指が育つと思うと、味気ない端末業務も、卑しい鍛錬が重なりやや楽しくなる。
老いてはikedaに従え。