一体何事かと驚くほどの人の波で街路が埋まった銀座をバスで横切り、午後3時44分東京発の新幹線に乗車すると、左真横からほぼ水平に車内を貫く西日をビルの隙間からチカチカと瞼に受ける度に、目薬のような明晰さで、ポタッポタッと眠気が瞼から頭の芯に突き刺すのだった。
大宮を過ぎる前に、膝の上の単行本を伏せ、Prokofievを聴いたまま、光の明滅の中眠りに落ちていた。夕陽が空にだけ残る高崎ではっきりと目覚め、軽井沢では薄い雪化粧の浅間を、残照の中清楚な姿だと眺めたが、上田を過ぎると街の灯りが粒子と広がる夕闇となった。改札口を出ると聖歌隊が並んでいた。

母親の、月頭の過労、心労が顎に現れ手術する羽目になった顛末と術後の経過を聞きながら、懐かしい食事と泡盛で暖めた身体を使い、人間を刻んで分ければ丁度一人分の片道切符代となる5個に膨れた撮影機器等の荷を解き環境を整えると午前零時を過ぎていたが、L’Ange(1982) / Patrick Bokanowski をプロジェクターで観ることにした。六本木のシネヴィバンで1985年の冬に観ているから、23年ぶりの再観となる。映像が夕方の列車の中の光と重なり、不思議なもので1985年当時が淡く幾つもの断章のように、作品の映像と照応するように浮かんでは消えるのだった。



Le silence de Lorna(2008) / Jean-Pierre Dardenne(1951~),Luc Dardenne(1954~)
La Promesse (1996)
Rosetta (1999)
Le Fils (2002)
L’Enfant (2005)

ダルデンヌ兄弟の手法は、脚本、撮影、演出の全てにおいて、最も現代的であり注目に値する。正にインゴット作家といえる。ロゼッタDVDがなんでこんなに高価なのか?


図雅的婚事(Tuya’s Marriage)(2007) / 王全安(Quanan Wang)(1965~)
やはり死ぬ迄にモンゴルに行かねばいけない。

ー『トゥヤーの結婚』の撮影が行われたのは、中国内モンゴル自治区の西北部、アラシャ盟。中国で最も降水量が少ないとされるこの地域は、近年、乾燥がますます強まり、草原の砂漠化がすすんでいる。トゥヤーの物語の舞台として選ばれたのは、中国政府が環境の劣化に対してここで生きる遊牧民を強制的に都市へ移住させる、“生態移民”と呼ばれる政策をすすめる“苦難の地”なのである。トゥヤーを演じたユー・ナン以外には、実際にアラシャ盟で生きる人々がキャストとして選ばれた。そして、ワン・チュアンアン監督は、“生態移民”がすすみ、遊牧民の生活が永遠に失われてしまう前に、彼らの生活を、この土地で生きる彼らの喜び、悲しみ、怒りをフィルムに定着させようとしたのだ。2ヶ月にわたる撮影の後、遊牧民たちは移住させられ、この映画に記録された人々の暮らし、風景は、永遠に失われる事となった。 ー公式サイトより抜粋引用