小学生の頃の同級生のHは魚屋だったので教室でも近寄ると魚臭かったが仲がよかった。
そのHがある日これあげるよ。チョコボールの箱をランドセルから取り出したので思わず手のひらを差し出すとチョコボールと同じ大きさの羊の糞が転がり出たので驚いた。Hと記憶にあるが辿り始めるとTかもしれない。記憶は淡くなった。隣接する人間は全くわけのわからない世界をそれ自身の生として個別に全うしている。カメラを向けるといつもそういった他者に対する畏敬の念が浮かぶ。
地を見下げるようにではなく等価に眺めるカメラアングルはないものかと腰を下げあるいは雪原に寝そべってみるのだがそういうことではないなと屈託を持て余す。
件のHは魚の匂いがなくなったように記憶している。高学年になって友達から揶揄われたことが気になったのだろうHの店も奇麗に改装された。学区の変更で切り離された子供たちはたった一年の離別でその後の学校では話すこともなかった。