突風と気温で溶け出し真っ白なものが汚れはじめ樹々は黒々とした旺盛を赤紫に剥き出してこれが目にいい。

近寄ればめくれて禿げた樹皮の内側に瑞々しいものを露にしており積雪や風であおられ折れたような枝からも固い新芽のようなものが膨れている。凍ったはずの枝も掴めば柔軟によく撓った。上方の先端の枝も繊毛のように細く開き水中の生き物の触手をおもわせる。あらと馴染みの住民の表情を綻ばせて集って相談しながら提出する村役場の申告会場でおそらくあまり馴染みの無い顔をなにものかとあからさまにみつめられて対応に困惑しつつ名前を呼ばれるまでの時間手元に置かれた新聞を隅から辿った。
季節の峠は越えた安堵のようなものが樹木の様子と似た面持ちで住民に平たく広がっていて、ああこちらも同じような顔をしているのだろうなと顎に伸びた髭を撫でた。

丁度下校の時刻に坂を上りはじめたので脇の歩道を小学生のいくつものグループがまだ防寒着ではあったがいかにも跳ねるような軽快さと笑顔で転がっているので速度を落とした。カブに乗った老人のハンドルの両側に膨れた買物袋がぶら下がり袋から透けてワンカップが二つみえたので思わず笑みが溢れアタシは今夜は我慢しますと声をかけそうになる。

先住の人々の多くが住む田畑のある丘陵から森林を抜け標高が三百上の別荘の新開地にはこちらの知る限りでは定住であっても関西や川崎横浜東京など外来の人ばかりで、ナイトスキーのゲレンデの灯りの煌煌と届く輝きも近いので、このあたりの道路では県外ナンバーの車も珍しくない。村役場の界隈と違って所属の解かれた特区の様相に慣れ定着の気分がなかなか生まれないけれども役場に集う人々の幾千年もの系譜が残る顔や腕の皮膚や瘤や言葉からいずれこちらもなどと幻想を重ねて新たな季節に取りかかる土地へ直に手を触れるあれこれを考える。