春が立った翌日から気温が緩み零下の結晶の累積にまみれた界隈が朝の雨であっさりウィルスにやられたような萎えかたで凛としていた姿勢が崩れて融け黒々とした次の季節をいたるところにのぞかせた。

樹々の雪もすっかり流されたが気象予報では再び週の半ばから気温は下がるらしいので、今のうちにテラスの雪をできるだけ片付けようと昼すぎからじゃりじゃり氷を削る音を樹間に響かせ汗を流す。中央部分だけ残ったのは恣意ではなくて、積雪の影響を被る箇所を優先し輪郭を削り窓際に日差しが届くようにしたまでだが、眺めると雪で彫刻ですかと笑われるような形が残った。

濃霧の中ふつかつづけてふたつの離れたスキー場の客のいないレストランに行き、ぺったりとした誰もいないゲレンデを眺めつつ遅い昼飯を喰い辺りを歩くと、それでも数人は滑っている人間がいて、ゲレンデに流れるBGMも休日と比較すれば環境を配慮してか音量を絞ったものが哀しいような響きで渡っている。この時でしかない空間はどこか妙に精神に染み込み遠く凍り付いたベルリンの冬が憶い起こされ、おいまだ春になるのは早い。再び黒い春を覆い隠す白い結晶に対峙するような意気地を慣れたような心地で選んだ。