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 大糸線に乗ったことはあっただろうか。並走する国道148号は姫川本流が氾濫し、土石流や地すべりが頻発。各所で路盤が流出し1995年から1996年まで通行が不能だった。今でも数十年工事が続いているような錯覚がある。気の触れたものがつくった大仏がある。空の上から線路を俯瞰しながら乗車している奇妙な体感で、小谷あたりからアルプスの山襞に入り込み、右にはクライマーの今にも落下してしまうぞと声をかけたくなった、昆虫のような身体がぶらさがった垂直な絶壁の下の河原で、巨石の中変成貫入した翡翠を見つめる目玉を、海岸で探すというのは間違っているなどという溜め息そっくり膝の上に乗せ、妙な駅弁だと思っていた。柔らかい目玉をゆで卵のように箸でつまみ、記憶の鉱物だなどとわかったつもりになった。地中を湾曲する岩盤の隙間を電子のようにびりびりすぽんと潜って走り抜け出ると、別の路線の鄙びた集落がある。手入れの行き届いた小さな田畑を眺めていると、美しい女性が額の汗を拭っていた。遠くに犬を連れた青年がその女性を眩しいような目付きで凝視している。
 風邪とも潰瘍ともわからない病の眠りの中で夥しい夢を繰り返し、あるいは巡らせた途端失せていた。二日で三十時間の睡眠はここ数年記憶に無い。関節が緩んだように離れて脱力し、喉が渇いて目を覚ましたまま暫く動けずに瞼を閉じていた。病の人は床の中で眠っているわけではない。眠れやしないだろうなどと思った。眠りにすとんと落ちた分、こちらの病はその程度なのだろう。
 そもそも嘔吐の前日に数ヶ月ぶりにゲームでもやろうかと、最近の写真撮影から出力への集中、熱中をふいに棚にあげ、最新の機器でダウンロードしたものを一時間遊んで萎えた。いかに心血を注いだ最新の技術であってもCGの仮想ゲームで遊ぶには、写真が骨に染込みすぎていた。限りなく現実に近寄る仮想は、その手法自体が征服者のような無知未熟な恣意の塊であり、いかにも人間的でありすぎる。なにか面白いものがあるのかしらとゲームリストを探っても数えるほどのボリュームで、お粗末なものしかない。flOwが目に止まったが、一昔前のflashゲームという、これも何か幼児教育などの人為、恣意の初歩的なものとうつり、誰がこれを何に使うのだと呟いていた。このゲーム技術を、例えば、家や街、乗り物など、現実環境を設計しネットワーク上に提案するSNSへオープンソースとして共有展開させようと誰も考えないのが不思議だ。いつまで萌えと殺戮ゲームで金を稼ぐつもりなの。貿易輸出9000億ドルが拉致するこの国の若い知性はこんな使われ方をされているわけだ。Sonyさんお前のことだよ。
 だが、このふとした横滑りのおかげで、写真へ立ち戻り、まだ骨に歪みが走るまま寝そべって、書棚の写真集に手を伸ばし、赤瀬川からブレッソン、デコルシア、畠山など捲った。飯山線と大糸線を巡るか。
 ピスト用ドロップハンドルのクランプ径が25.4mmで、一度フラットバーと取り替えようと、中学生に戻ったような気持ちで六角を使って取り外すと、これが22mmのものであったので、ブレーキレバー、シフトレバーが入らない。ハンドルのとれたまま乗れなくなったチャリをオフィスの床に放ったままだったので、写真集を棚に戻してから、25.4mmのブレーキレバー、シフトをネットで探す。どうやら、MTB用のものを代用すればなんとかなるとわかり、サイズを確認して注文する。ネットの記述にカスタムを繰り返して、結局新品が買えるほどの金額を投入してしまったとあり、そうだよなと笑う。パスタを柔らかくしてトマトソースにて腹に入れる。


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NITTO B123Steel / バークランプ径:25.4mm
SHIMANO SL-BS77 Bar end Shift Controller
TEKTRO INLINE LEVER

philosophy.jpgphilosophy / Ryujin Kiyoshi for rina.