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移動の車両の中で、観念の整理をすると、洗練に向かわざるを得ない状況が生まれ、頭を抱える。
レバニラ炒めを喰う店のモニターから響く甲子園のバット音が、いつまでも残る。
小ホールだから早めに来ないと座れないと娘に急かされ、予定の時間より1時間早くから席につき、東京都中学校吹奏楽コンクールを観る。管楽器はみな肺と胃袋の身体の延長装置なのだと、数日前浮かべて失笑した出目の望遠の身体と比べると眺めが変わって見える。音響の幼気な自己実現の形の束ねられたひた向きさに、今年もまたうたれた。はるぼう金賞おめでとう。

晴海埠頭の花火大会の騒々しさから逃れる為に、練馬から直接東京駅に向かい新幹線に飛び乗り、「深海のイール」を捲り、上田を過ぎたあたりで読了。夕方、中、下巻を買いにでかけ、中を捲り始め、その冒頭の、グレイウォルフとアナワクのダイアログに、作家の本質的な姿勢が顕われ、なるほど昨今の単なる娯楽と異なる新しい倫理を示そうとする意志を感じた。北川和代の翻訳の平明さがとても良い。フランク・シェッツィングは「決壊」平野啓一郎と百匹目の猿の関係にあるのかもしれない。


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深海のイール(上・中・下) / Frank Schätzing 読了。この長編の速読感は頼もしい。映画化が決定されているが、言葉の海としての小説の力に、良い時期に触れることができた。タルコフスキーの惑星ソラリスを想起し、他者論が徹底して行き届いており、現実感が歪められることなく、説得力を維持して最後まで導いてくれた。プロットの構成が機能的でスピード感があり、中途の描写にも必然性があり、冒険活劇風なやんちゃさもなぜか許せた。ダイアログ(対話)がとても自然で良い。個人的には、リーの設定が、ベルリンの壁のような懐古趣味的な時空と、Jeane Jordan Kirkpatrick(1926~2006)などのネオコンを引き寄せる。もっと違った今風の設定もあり得たと気にはなった。物語の閉じ方が少々乱暴。多少、最後にちらりと大きな飛躍をのぞかせて欲しい。
娘たちには、この休み中に是非読んでいただこう。


SOLSTORM / Åsa Larsson(1966~)