次女が、突然左目の痛みを叫び、泣き方が尋常ではないので、驚いてそのまま神楽坂眼科に連れていく。洗浄して診察してもらうが、これといったゴミもないし、おかしなところがない。麻酔で痛みを抑えて、若い医師は原因を探そうと丁寧に診てくれたが、睫毛がひとつあっただけ。次女の話を聞くと、眼から血が流れだしたと思ったという。神経かなにかかしらと、眼科医である妹の亭主に電話して似た症状がないかどうか尋ねる。麻酔で痛みがひいたということは、眼球の表面の問題だろうから、中身を心配することはないのではないか。睫毛ひとつでも、位置によっては痛みがずきんとくる場合があると明快に答えてくれた。神楽坂眼科からの帰り道、コンビニでヘアピンを付き添ってくれた長女に買わせて、次女の髪の毛をまとめさせた。保健室で痛いと思っていた眼から髪の毛がすれっとでてきた友達の話を長女がして、こんな世の中を渡り歩くには、ゴミや危険を防ぐ手立てが睫毛と涙とは、幼気な生物だと思うのだった。書棚の眼球譚に手が伸びた。