記憶の捜査

 捜査とは大袈裟な感じもするが、取り零していた事が、思いの外沢山あるものだと狼狽していた。なにしろ自身の過去など過ぎ去ってしまったものだと、無責任に放ったまま背後に掠れて消滅するような気分を疑う作業だから、痕跡を辿って記憶を蘇らせて「あの時」の不透明と不備を明瞭にさせることは、犯した罪の贖罪を行うような妙な心持ちとなる。残されている視認できるスケッチの類いや画像を起点としてそこに降り立ち、状況を添えて当事者の魂に移り住むようなこともある。言葉(記述)などに至っては、散文よりも殴り書かれている乱れた文字のほうが鮮明な何かを示していた。
 残されているエビデンスの数々は、一言で言えば、悉く酷い有様で、某らの成就などとはほど遠いゴミ屑と思われたが、眺め直すうちに当事者が事象生成時には気がついていないモノがみつかることがある。それを頼りに海馬のパルスもめっきり喪失したかの脳内で、軀を動かす指令を下すわけだ。