観念

8トラックのマルチレコーダーで12時間も続けてサンプリングした音のミキシングをしていた。午後の3時にヘッドホーンで潰れた耳を指で元に戻して、痺れた脳を休める。
 昨日は来客が多い日だった。
 土曜日は休もうとしていた。結局20時間狭い部屋にいることとなった。夜になって闇雲に街の中車を走らせた。夜中の書店で、あれこれ雑誌や新刊を捲り、ぶちぶち文句をつぶやいて、さっさと戻る。
 端的な表現を望んでも、そこへ至る方法はかなり複雑になるとわかってはいた。その複雑さをこそ全面に押し出すべきだろうか。複雑な迷走に人間的な真理は宿ると思いながら、複雑さを嫌うのだから困ったものだ。
 花の咲く季節になりきらないせいで、観念が先行するのだ。けれど、こんな時に、予測できなかった景色が、あるいはイメージがどこかからやってくる。3日前確かに梅雨の匂いをたしかに臭いだ。