ストーブのヤカンの音が、海中の・・・・。

雪が降りそうだ。午後6時30分。この時間にどれほどの意味があるのか。
窓の外は、海の中のようなコバルト。青で深く染まっている。あちこちの家の窓が、テレビのぶらうん管のようだ。
とても、春という季節ではないな。
 ストーブのヤカンの音が、海中の・・・・。
 ぼくは、外をふらつきながら、外の毒気をあびて戻り、どういうことか極端に内向している。スピーカーを8つ置いた狭い書斎で、音の中で、瞳を凝らして何かをみつけようなんて足掻いている。大量の落書きのようなエスキースやアイディアを捨てて、つまりもっとも嫌悪する自身を痛みつけて喜ぶ思春期を、幼く繰り返そうとしているわけだ。
4月9日の金曜日の夕方、街角で、ポカンと真っ白になって、ああこれが画布かと、虚空を指でなぞっている自分の仕草にぞっとし、恐ろしくなった。
 時間はスパッと過ぎて、過ぎ去った時間の持っていた意味を、しばらくして突然突き付ける。そのたびに腰が抜けそうになった。時々抜けた。
 夜8時に戻り、9時に眠り、夜中の2時に起き出して、午前9時の散歩のあとまた深い睡眠をとる。