南へ

ビクトル・エリセのエル・スール「南へ」を観る。8mm のビデオテープにダヴィングして、一体何度眺めただろう。自身のリアリティーが失せて、体感も萎え、躰そのものが余計と感じられた時に度々みたように思う。物語は静かに語られ、ぼくだけにむかって開かれていく錯覚に任せ、虚構の少女が再び差異を与える。
 つぶやき。フェードアウト。かもめの家。国境と呼ばれる路。父。神話と愛のパラドクス。
 (音をたてると実験の邪魔よ) そういうことをぼくは辿っている。
 (何も考えないで、しずかにやってごらん。そうだ。頭の中をからっぽにして)
 (・・・それでいい)
 (パパ、まわっている)
 (そこだ。そのまま・・・・)(まわっている・・・)
  ミラグロスという天使。語りべであり潤滑するオイル。
 (南へ・・・)