振舞い

 邂逅の奔放な振舞いで風を切る肉体は失ってしまったと、山奥から川沿いを走り抜ける夢をみた後につくづく感じながら、現状を戒めた風の、目の前の展開が思索蓄積に促されてばかりいると、緩やかなヒューモアや弛緩、あるいはジェントルな躊躇が失せてしまい、顔つきまで干涸びた顰め面となる自覚があるので、そういった閉塞を取っ払う手段を様々に試みるわけだ。
 壮年期まで所謂社会貢献の形にて時間をすり減らしてきたが、まんまと自己自在へ精神と身体を注ぐ時を得ることはできたかもしれない。とはいえ、対向車とすれ違う度に、あのドライバーとこちらとではほとんど全く噛み合ないパラレルな世界線を生きているなと思いつつ、パラレルワールド乱立の煩雑という多様性の罠から逃れる努力を怠っていると転倒の錯誤に陥る。悟性交換は家族のみにすれば良いと弁えてから斯様な老境に入ったようだ。
 毎度の事だが白い画布を壁に立て掛けて、時間ばかりがながれるに任せる。ふいに「枝が折れる」事象を、ぽきぽきと声に出しながら木炭で線を引くのだった。
 窓の外の庭を痩せたキツネがとぼとぼと歩いていった。
 こうしたはじまりは悪くはないが、世界線に生まれた枝の始末がまた増える。