春に企画招聘されたスケールに従った冬の制作は、初夏には準備していた黒胡桃材を使用した9つの立体作品となった。素材本来の持つ性質として感じ取れるボリュームは、生活空間に登用した素材に倣ったこともあり、質感と比重などからやはり家具的なスケールにて充足する材なのだと手で感じつつも、指定スケールというルールのみが類を決定する手法で、個的な併置を繰り返す。
晩秋まで取組んでいた平面の、顔料を置く(塗る)という作業が累積によって層を成していく事象より、顔料併置の境界に対する所作が、なかなか潔いものと昇華せずに項垂れていたことがあり、それらを放り出して、切り出された黒胡桃材の堅牢で清潔な平面性に頷きつつ、愉しみながら切り出し、組み立て、研くのだった。9つでこれを終えた理由は、企画招聘という社会性に対する回答の可能性の限界を示すものであり、既にこのルールから逸脱した併置を、私は始めており、これはスケール限界を持たせないまま、端材自体の有り様に任せるものとしている。
5年前に「ウィトゲンシュタインのペントミノ(WP)」と自身で名付けた、小さな立体制作からインスタレーションなどの継続系譜線上に、逆らわずに黒胡桃を併置することを望みながら、設計観念からの初動ではなく、出鱈目な端材積木の視覚認識を先行させたので、組み上げられる限界スケールに納めるという異例に、併置決定はむしろ助けられた。この類的な規格によってこれまでのWPと異なって生じる併置の、「隙間」という事象が、こちらにとってはこれまでとは種類の違った現象となって顕われ、1986年に制作した「*モンゴロイドTV」の詳細を想起するのだった。
(*ブラウン管TVを鉄の箱に収納し、イヌイットサングラスを模した細いスリッドから画面が視認される立体作品。眺めに慣れると、細いスリットから画面情報が理解できるようになる。)
ウィトゲンシュタイン自身のレジリエンスとなったのではないかと、勝手に憶測している、建築空間への介入時の意識の巡りを、WPと短絡意訳して、私自身の幼少からの積木の改変反復の性向をそこに乗じた立体制作は、時に平面で行き詰まった作業打破となり、新たな平面展開の動機ともなっているが、今回の輸入建築材である「黒胡桃(Juglans nigra)」端材から導かれた、素材自体の感触を確かめる為に、別途、建て直しで保守した以前の家屋の他種の柱材(紫檀、黒檀等)を使った併置を行ってみようと思っている。
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